スタンフォード大、サイクル寿命が極めて長い高出力二次電池正極材を開発。自然エネルギー用の大規模蓄電システム向け

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スタンフォード大学の研究チームが、銅化合物のナノ結晶粒子を用いた二次電池正極材を開発。荷電粒子にはカリウムイオンを使用し、リチウムイオン電池と比べてサイクル寿命が格段に長くなるとのこと。太陽光や風力などの自然エネルギーを系統電力網に接続するために必要な大規模蓄電システムに適した電極材料であるとしています。

今回開発された電極材を使った二次電池は、気象条件の変化で急激に出力が低下する太陽光や風力発電などを電力網に接続するときの問題を解決できるという (Credit: Charles Cook/Creative Commons)

実験の結果、この電極は、4万回の充放電サイクル後も初期充電容量の80%を維持できたといいます。平均的なリチウムイオン電池では、充放電サイクル400回を超えた辺りから劣化が激しくなることを考えると、極めて長いサイクル寿命であると言えます。

「この電極を電力網に接続された蓄電池に用いた場合、1日当たり数回の充放電サイクルとして、30年間は余裕で使い続けることができるでしょう」と論文の筆頭著者 Colin Wessells氏は話しています。

「数万回のサイクル後も劣化しない二次電池というのはは、まさにブレークスルーといえる性能」と材料科学・工学准教授 Yi Cui氏も言います。

この電極の耐久性は、材料として使われているヘキサシアノ鉄酸銅の結晶の原子構造に由来しています。結晶の開骨格構造により、電極へのイオンの出入りがしやすくなるため、電極にダメージを与えずに済むのです。ほとんどの二次電池では、電極の結晶構造にダメージが累積することが劣化の原因となっています。

イオンの移動がスムーズであるため、この電極では充放電サイクルが非常に急速になります。これは重要な特性です。電池の出力は、放電の速さに比例するからです。

開骨格構造を最大限に利用するためには、イオンの大きさを適度なサイズにすることが必要だといいます。イオンが大きすぎると、電極からの出入りの際に詰まりやすくなって、結晶構造にダメージを与えてしまいます。また、小さすぎると、原子間にある隙間の一面にイオンがくっつき、そこでイオンの移動が止まってしまいます。研究チームによれば、適度な大きさをもつイオンはカリウムの水和イオンであり、ナトリウムやリチウムなど他の水和イオンよりも、材料との相性が良いといいます。

また、Wessell氏が合成した電極材粒子は、ナノ粒子の中でも特に微小なものであり、原子100個分の大きさしかありません。これによって、電極の充放電速度は、さらに速まります。

このように材料を適度な寸法に設計することで、イオンが電極中をそれほど長く移動しなくても粒子の活性部位と反応することができ、最大容量まで充放電ができるようになるといいます。

二次電池に関する最近の研究は、Cui氏のグループも含め、エネルギー密度の高いリチウムイオン電池にフォーカスしたものが多くなっています。エネルギー密度の高さは、ノートPCなど携帯電子機器にとって大きな利点です。

しかし、電力網に接続する蓄電システムに関して言えば、エネルギー密度はそれほど重要ではありません。持ち運ぶ必要がないので、電池の大きさは家一軒分くらいあってもいいのです。それよりも問題になるのは、電池のコストです。

リチウムイオン電池の部材の一部は高価であり、電力網の中で使用する規模のリチウムイオン電池を作ることが経済的であるとは断言できないのが現状です。

「私たちは、電力網向けの低コストな二次電池と電極材料を作るには、新しいタイプの化学を開発する必要があると判断したんです」とWessells氏は言います。

研究チームは、水系の電解液を使うことにしました。Wessells氏によれば、リチウムイオン電池などに使われている有機系電解液と比べて、水系電解液は基本的にタダだからです。また、電池材料の原料として用いているのは、鉄、銅、炭素、窒素など市販されている前駆物質であり、どれもリチウムに比べて極めて安価なものばかりです。

この新しい電極の唯一の限界は、高電位の電極材としてしか使えないということだといいます。すべての二次電池は、電位の高い正極と電位の低い負極という二つの電極を使って、その電位差から電気を取り出します。従って、実際に動作する電池を作るためには、負極材として使用できる材料を見つけることが、次の課題となります。

Cui氏によれば、研究チームはすでに様々な材料を調査しており、いくつかの有望な候補材料を得ているといいます。

まだ完全に動作する電池はできていないものの、新しい電極の性能は従来のどんな電極よりも優れています。気象条件の変化によって急激な出力低下を起こす太陽光や風力発電などの電力品質を安定化して電力網に接続するために、この材料の電気化学的特性は有効な解決策となるだろうと、研究プロジェクトに関わった材料科学・工学名誉教授 Robert Huggins氏はコメントしています。なお、Cui氏とWessells氏は、この電極材料の製造法を商用化可能な量産規模に拡大することについても、特に技術的な障壁はないと指摘しています。


発表資料

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