Empaら、1分子でできた世界最小の「ナノカー」開発。電気で駆動する四つの車輪で走行

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スイス連邦材料試験研究所(Empa)と蘭フローニンゲン大学が、1分子でできた世界最小の「ナノカー」を共同開発したとのこと。電気エネルギーで駆動する四つの車輪を使って、銅の表面をほぼ真っ直ぐに走行できるとしています。

ナノカーのサイズは、4nm×2nm程度。電気で駆動する四つの車輪によって銅の表面を前進走行できる (Image courtesy of Empa)

通常のエンジンは、化学、熱、電気などのエネルギーを運動エネルギーに変換する機構であり、物体を運搬するために使われますが、同じ仕組みは自然界の中にもみられます。キネシンやアクチンなど、細胞内に存在するモータータンパク質です。これらのタンパク質は通常、線路の上を電車が走るように他のタンパク質の上を滑りながら移動し、その過程で自然の化学燃料であるATP(アデノシン三リン酸)を燃焼させます。

同様の原理とコンセプトを用いて分子レベルの輸送マシンを設計することは、多くの化学者がめざすところです。このような輸送マシンが実現すれば、ナノスケールでの特殊な作業を実行することが可能になるでしょう。

「ネイチャー」最新号に掲載された論文によると、Empaとフローニンゲン大の研究チームは、人工のナノスケール輸送システム実現に向けた最終段階に入ったといいます(ナノカーは、ネイチャー2011年11月10日発行号の表紙にも採用されている)。

同チームでは、四つの回転モーターユニット(つまり車輪)で構成された1分子を合成。この分子を制御して、真っ直ぐに前進移動させることに成功しました。「私たちが開発したナノカーは、線路や燃料は使わず、電気で走ります。それは世界最小の電気自動車であり、また世界最小の四輪駆動車でもあるのです」とEmpaの研究者 Karl-Heinz Ernst氏は言います。

今回開発されたナノカーのサイズは4nm×2nm程度で、フォルクスワーゲン・ゴルフの10億分の1という小ささです。弱点は、車輪が半回転するごとに電気を補充する必要があること。電気供給は走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針先端から行います。もう一つ問題なのは、分子設計上、車輪が一方向にしか回転できないことです。「つまり、バックギアがついていないんです」とErnst氏。

有機分子複合体を駆動させるには、まず分子を銅表面上に昇華させ、その分子と適度な距離を取るようにSTM探針の位置決めを行ってから、最小で500mV程度の電圧を印加します。すると、電子が分子をトンネルし、四つのモーターユニットでの可逆的な構造変化を誘発。これによってシス‐トランス異性化反応がはじまり、二重結合において一種の転位が発生します。このとき空間的に不安定な状態が生じるため、エネルギー的により安定した状態に戻ろうとする過程で、車輪が半回転するのだといいます。四つの車輪が同時に回転する場合、ナノカーは前進するはずです。

研究チームは今回、実験観察でこのことを確認しました。STMでの電圧印加を10回行ったところ、分子はほぼ真っ直ぐに6nm前進したといいます。「予測された軌道からズレが生じるのは、四つのモーターユニットを同時に励起することが容易ではないという事実によるもの」とテストドライバーのErnst氏は説明します。

別の実験では、分子が予測どおりに振る舞うことが示されました。分子の一部は、C‐C単結合の主軸(車でいえばシャーシにあたる部位)のまわりを自由に回転することができます。従って、分子が銅表面上に接地するとき、二つの異なる配向を取り得ることになります。正しい配向の場合には四つの車輪が同じ方向に回転しますが、誤った配向の場合には前軸の車輪と後軸の車輪が逆方向に回転するため、励起された状態でもナノカーは立ち往生したままになります。研究チームは、この様子をSTMで観察することにも成功しています。

このようにして、研究チームは最初の目標である「コンセプトの証明」を達成しました。すなわち、個々の分子は外部の電気エネルギーを吸収し、そのエネルギーを狙った動きに変換できることを実証したのです。研究チームは、次の段階として、光(おそらく紫外線レーザー)で駆動する分子の開発を計画しているとのことです。


発表資料

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