バークレー研究所、蛍光・りん光の基本原理「Kashaの法則」を破るテトラポッド型半導体ナノ結晶を開発。センサ、光デバイスへの応用期待

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1951年に化学者のMichael Kashaによって提起されたKashaの法則によれば、ある一分子が発光する時、分子はその最低励起状態からしか光(蛍光・りん光)を放出しないとされます。これが、フォトルミネッセンスにおいて、励起光よりも低いエネルギーで分子が発光することの理由になります。有機分子の中には、アズレンのようにKashaの法則があてはまらないものもありますが、こうしたケースは稀です。量子ドットで構成される高輝度のルミネッセンス分子系でKashaの法則が破れるという事例は、これまで報告されたことがありませんでした。

CdSe量子ドットを核とし、4本のCdS腕を持つテトラポッド型の半導体ナノ結晶分子 (Image courtesy of Lawrence Berkeley National Laboratory)

「私たちは、ある半導体ナノ結晶分子が、複数の励起状態で発光することによってKashaの法則を破る、ということを実証しました。その分子は、セレン化カドミウム(CdSe)量子ドットを核とし、4本の硫化カドミウムの腕を持つテトラポッド型の形状をしています」と研究メンバーの一人 Paul Alivisatos氏は言います。「このナノ結晶系は、有機分子に比べて量子収量が非常に高く、光安定性も比較的良いため、光学センサ用途や、LEDやイメージング標識などの発光アプリケーションに応用できる可能性が高いと思います」

半導体テトラポッドは、電子的に結合したナノ結晶の研究にとって格好の題材をもたらしている、と同研究チーム Charina Choi氏は説明しています。

「ナノ結晶分子の研究とって、複合的なナノ結晶の成長が可能になるというのは重要なことです。そうしたナノ結晶複合体では、シンプルなナノ結晶のブロックが組みあがり、明確な形で結合しているからです」とChoi氏。「電子的に結合したナノ結晶分子には多くの型がありますが、半導体テトラポッドは美しい対称性を持つという特徴があります。この対称性は、有機化学の基本単位の一つであるメタン分子に似ているものです」

今回、研究チームが設計したCdSeとCdSコアシェル構造を持つテトラポッドでは、準タイプⅠバンドアライメントにおいて、30~60%という高い発光量子収率がもたらされています。このテトラポッドの最高被占分子軌道(HOMO: highest occupied molecular orbital)はCdSeコアにある1個の正孔に関与し、一方、最低空分子軌道(LUMO: lowest unoccupied molecular orbital)はコアだけでなく4本の腕側にも同様に存在する確率があります。その次に準位の低い空分子軌道(LUMO+1)は、主に4本のCdS腕にあります。

米国エネルギー省エームズ研究所で行われた単一粒子フォトルミネッセンス分光法によるテストを通じて分かったのは、CdSe/CdS コア/シェル構造テトラポッドが励起する時、これまで考えられてきたHOMO – LUMO間のエネルギーギャップからの光子放出だけでなく、LUMO+1からHOMOへの遷移に対応する高いエネルギーでの光子放出も起こる、ということでした。

2色の光を放つCdSe/CdSコアシェル構造テトラポッド (Image courtesy of Lawrence Berkeley National Laboratory)

「CdSe/CdSコアシェル構造テトラポッドが2色の光を放つことを発見したときには驚きました」とChoi氏。「もしも発光の波長や強度を制御できるようになれば、このテトラポッドを多色発光技術に利用できるようになるかもしれません」

同チームのPrashant Jain氏は、次のような例を挙げています。「発光を利用した光学センシングの領域では、発光強度の変化だけに頼るのは実用的ではありません。発光強度は背景雑音によって著しく変動しますので。しかし、もしも分子が複数の励起状態から発光するなら、発光強度に依存する場合に比べて精度がより高く、強度変動や背景雑音への耐性もある高感度センサが設計可能になります」

CdSe/CdSコアシェル構造テトラポッドには、もう一つ別の期待もあります。力を測定するナノスケール・センサへの応用可能性です。 Alivisatos氏とChoi氏の先行研究で、4本の腕にかかる局所的なストレスに応じてテトラポッドの発光波長がシフトすることが示されたのです。

「ストレスを受けてテトラポッドの腕が曲がるとき、ストレスでテトラポッドのヘテロ構造内での電子的結合が乱されます。これによって発光する色が変化し、さらに二つの励起状態からの発光強度の比も替わります。私たちが現在試みているのは、この依存性を利用した生物学的な力の測定、たとえば心臓細胞の鼓動によってもたらされるストレスの測定などです」とChoi氏。

CdSe/CdSコアシェル構造テトラポッドの腕の長さを調節することによって、バンドアライメントとヘテロ構造内での電子的結合の調整が可能です。その結果、複数の励起状態からの発光を調整できるようになるでしょう。これはナノ光学の応用にとって重要な前進です。

「私たちはすでに、テトラポッドの腕の長さを変えることによって、LUMO+1 – HOMO遷移での発光の振動子強度が調整できることを実証しています。また、腕の厚み、腕の本数、化学組成、粒子の種類など、構造的な修正を適正に行うことで、発光の寿命とエネルギーも制御できるようになると予想しています」

原文 http://bit.ly/iy90c9
訳出 SJN

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