米アルゴンヌ国立研究所が、負極材料に二酸化チタンのナノチューブを用いて、30秒で元の容量の50%という高速充電可能な二次電池を開発したとのこと。さらに、この電池で充放電を繰り返しているうちに、だんだん性能が良くなっていくという不思議な現象が発見されたと報告しています。

アルゴンヌ国立研究所のナノ科学者 Tijana Rajh氏。手に持っているのは今回開発された二酸化チタンナノチューブ材料の短冊 (Image courtesy ofArgonne National Laboratory)
ナノ科学者 Tijana Rajh氏、電池の専門家 Christopher Johnson氏らの研究チームが、従来のグラファイト負極の替わりに二酸化チタンのナノチューブを用いた二次電池を作製したところ、驚くべき現象が観察されました。通常、二次電池は充放電サイクルが増えるとだんだん性能が劣化していくものですが、この電池では、充放電を繰り返しているうちに内部構造に変化が起き、著しい性能向上が見られたというのです。
「この材料の研究を始めたとき、こうした現象が起こるとは予想していませんでした。しかし、負極は自発的に最善の構造をとるようになったんです」とRajh氏。「一種の可塑性が内在することによって、電池が充放電サイクルを重ねるにつれてシステムが変化していくようになっているんです」
Rajh氏と共同で新規負極材料の開発を行った Hui Xiong氏によると、二酸化チタンが、グラファイトの代替材料になるとは考えられていなかったといいます。「私たちが研究に着手した材料は、これまで実用性があるとは考えられたことがなく、また、何か良い結果をもたらすものに変わるとも思われていなかったものでした」
また、Rajh氏の研究チームのメンバーである Sanja Tepavcevic氏は、性能が自発的に向上する構造を作る同様のアプローチをナトリウムイオン電池に適用しています。
「この材料の挙動は、非常に特異なものです」とアルゴンヌ研究所でエネルギー貯蔵の研究を主導する化学者 Jeff Chamberlain氏は指摘しています。「私たちが観察しているのは、ある種のナノスケールでの相転移であり、科学的見地から大変興味深いものです。これらの材料の挙動をより深く理解することが、電力貯蔵システムに利用される材料の謎の解明につながると考えられます」

二酸化チタン負極を用いたナトリウムイオン電池のサイクル特性。繰り返し充放電に伴って容量が増加する (J. Phys. Chem. Lett., 2011, 2 (20), pp 2560-2565 / DOI: 10.1021/jz2012066)
二酸化チタンが電池開発に対する解決策になるとは信じられないと考えられている理由として、この材料のアモルファスな性質があります。アモルファス材料の内部には規則性がないため、高い規則性を持つ結晶材料に特有の電気的特性が欠けているのです。しかしながら、アモルファス材料が充放電サイクルの過程で重大な構造変化を遂げるということはこれまで知られていなかったのだ、とRajh氏は言います。既知の電池材料のほとんどは、これとは逆の変化をたどります。出発点では高品質の結晶材料であり、充電サイクルを経るに従ってアモルファスな状態へと変わっていくのです。
グラファイトの代替材料として二酸化チタンで構成される負極を使うことにより、リチウムイオン電池の信頼性・安全性も向上するといいます。ある種の条件下では、リチウムはグラファイト負極上に堆積し、熱暴走と呼ばれる危険な連鎖反応を引き起こします。しかし、二酸化チタン負極に対して行われたすべての試験の結果は、この材料が並はずれて安全なものであることを示すものだった、とChamberlain氏は述べています。
発表資料
おすすめ記事
- バークレー研究所、モリブデナイトの活性部位を模した新規分子を合成。水素製造に使えるプラチナ代替の低コスト触媒に期待
- 海洋温度差発電プロジェクトが米国で進行中。地熱に続く「グリーンなベース電力」めざす
- ゼラチンを使った建物の放射能除染技術、アイダホ国立研究所が開発
- 米アルゴンヌ国立研究所、微小な物体をつかんだり運んだりできるマイクロロボット開発。交流磁場で動きを制御
