理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター強相関物質研究チームの軽部皓介特別研究員、田口康二郎チームリーダー、創発物性科学研究センターの十倉好紀センター長らの国際共同研究グループは、室温でスキルミオン格子を示す物質を磁場中で冷却すると、非常に広い温度・磁場領域でスキルミオン格子が存在できること、冷却過程でスキルミオン格子が三角格子から四角格子へ構造転移することを発見した。2016年9月19日付けの Nature Materials に論文が掲載されている。
スキルミオンは、固体中の電子スピンによって形成される数nm~数百nmの大きさの渦状の磁気構造体であり、基礎研究の対象としてだけでなく、新しい高性能の磁気情報担体として応用する観点からも注目を集めている。スキルミオンはこれまでに、キラルな結晶構造を持つ物質において、三角格子を組んだ結晶状態として観測されてきた。最近では、コバルト-亜鉛-マンガン(Co-Zn-Mn)合金において室温および室温以上でスキルミオン格子の形成が報告されている。しかし、スキルミオン格子が安定して存在できるのは、磁気転移温度直下の狭い温度・磁場領域のみに限られるため、安定領域の狭さが課題の一つだった。
国際共同研究グループは、室温でスキルミオン格子状態を示す物質「Co8Zn8Mn4」に着目し、交流磁化率および中性子小角散乱を詳細に調べた。その結果、①室温のスキルミオン格子状態は磁場をかけたまま1分間に約1℃の速度で冷却するだけで準安定状態として、絶対零度付近・ゼロ磁場まで含めた非常に広い温度・磁場領域に存在できること、②この準安定状態の中でスキルミオン格子が通常の三角格子から四角格子へ構造転移することが分かった。
今回の研究は、スキルミオンが存在できる領域を非常に広い温度・磁場領域まで容易に拡張できることを示したもの。スキルミオンの応用に向けた大きな前進といえる。また、四角格子スキルミオンはこれまで理論的には存在が予測されていたが、実験的に観測された例はなく、今回の発見はスキルミオンの基礎科学としても非常に大きな意義があるとする。
発表資料
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