住友ゴム工業、耐摩耗性能を200%向上させたタイヤを開発

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住友ゴム工業は、タイヤ用ゴム内部の構造と運動性の詳細解析とコンピュータシミュレーションを駆使し、低燃費性能とグリップ性能を維持しつつ耐摩耗性能を200%に向上させたタイヤ「耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ」を開発した。理化学研究所放射光科学総合研究センター、高輝度光科学研究センター、日本原子力研究開発機構J-PARCセンター、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所、総合科学研究機構、東京大学大学院新領域創成科学研究科との共同研究による成果。同タイヤは、「第44回東京モーターショー2015」に参考出品された。

耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ

耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ

タイヤゴム中に形成される階層構造の中で、シリカ界面ポリマーは古くからタイヤゴム性能に大きく関係し、シリカ表面極近傍に束縛されたポリマーとその周囲に存在するポリマーの動きが重要であると考えられてきた。しかし、シリカ界面における構造と運動性を調べることができる分析技術がなく、タイヤゴムとしての物性とどのように関係するのかよく分かっていなかった。

研究チームは今回、シリカ表面の改質によるシリカ界面ポリマー構造と運動性を調べるために、J-PARC BL02 (DNA)・BL14 (AMATERAS) 中性子準弾性散乱法、BL16 (SOFIA) 中性子反射率法とSPring-8 BL03XU X線光子相関分光法を用いて研究を進めた。

シリカ界面ポリマーの構造:中性子反射率法により、界面の深さ方向の分布を測定。その結果、シリカ界面にスチレンリッチ層があることを確認した。

シリカ界面ポリマーの構造:中性子反射率法により、界面の深さ方向の分布を測定。その結果、シリカ界面にスチレンリッチ層があることを確認した。

中性子反射率実験からシリカ界面構造を調べた結果、シリカ表面に対しタイヤゴム分子SBR(スチレン-ブタジエン共重合体)のうちスチレン成分がシリカ界面と強く相互作用し多く偏在していることが分かった。シリカ表面を改質しシリカ周囲のポリマーの動きやすさを中性子準弾性散乱により調べたところ、改質方法を変えることで運動性をコントロールすることができることも分かった。さらに、弾性散乱成分を解析しゴムの強度に関係するシリカ表面に束縛されたポリマー量を調べたところ、改質方法によって束縛ポリマー量が変わることも分かってきた。シリカ表面改質によりポリマー中のスチレンの相互作用とポリマー分子の動きやすさをコントロールできることになる。

シリカ表面改質によるゴム分子の運動性と束縛量の変化:中性子準弾性散乱により、改質によりシリカ界面におけるポリマーの運動が変化すること(左図)、シリカ界面における束縛量が変化すること(右図)が分かった。

シリカ表面改質によるゴム分子の運動性と束縛量の変化:中性子準弾性散乱により、改質によりシリカ界面におけるポリマーの運動が変化すること(左図)、シリカ界面における束縛量が変化すること(右図)が分かった。

シリカ表面改質によってシリカネットワークの運動性がどの様に変化するのかを、X線光子相関分光法を用いて調べた。シリカネットワーク構造はゴム強度に大きく影響するだけでなく、グリップ性能や低燃費性能に大きく影響する重要な要素となる。シリカネットワーク運動性解析の結果、シリカ表面を改質することでナノスケールでのシリカ界面ポリマーの構造と運動性がマイクロスケールのシリカネットワーク運動にまで影響することが分かった。シリカ表面を改質しシリカ界面ポリマーの運動性を高めることで、ゴムの強度を損なうことなくシリカネットワークをフレキシブルにコントロールできることになる。

X線光子相関分光測定結果:ゴムにコヒーレントX線を入射した際に得られるスペックル像(左図)。改質によりシリカネットワーク運動の緩和時間が変化することがわかった(右図)

X線光子相関分光測定結果:ゴムにコヒーレントX線を入射した際に得られるスペックル像(左図)。改質によりシリカネットワーク運動の緩和時間が変化することがわかった(右図)

タイヤ用ゴムの耐熱性と耐疲労性に関与する架橋構造についても調べた。ポリマー同士を連結させる架橋剤としては硫黄が使われている。ゴムの架橋点を構成する硫黄は、1個から最大8個までの長さ分布を持っており、架橋長さが短いと耐熱性に優れるが、逆に耐疲労性が低下するという相反の関係にある。このため、硫黄架橋長さ分布を調べてコントロールすることは、ゴムの強度や経年変化を向上させるために重要となる。研究チームは、SPring-8と共同でBL27SUにて硫黄K殻X線吸収微細構造解析技術の開発を行い、硫黄K殻におけるXAFS計測に成功。硫黄架橋長さ分布を得ることに成功した。さらに、SPring-8 BL03XU/BL08B2によるX線小角散乱実験や中性子小角散乱実験を行い、架橋不均一構造(硫黄架橋点が空間的に不均一に存在している状態)についても研究。不均一構造中にどれだけの架橋点が存在するのか詳細に解析した。

(左から)硫黄架橋の模式図、XAFS測定結果、XAFS解析によって得られたゴム材料中の硫黄架橋長さの分布、X線散乱測定結果

(左から)硫黄架橋の模式図、XAFS測定結果、XAFS解析によって得られたゴム材料中の硫黄架橋長さの分布、X線散乱測定結果

これら研究により得られた構造や運動性について、「京」を用いた大規模分子シミュレーションを実施した。その結果、ゴムを変形した際にゴム内部で生じる様々なストレスや発熱の原因が分かり、このストレスを低減させる材料設計を、シミュレーションを活用して行った。

ゴムの耐破壊性を評価するためには、SPring-8 BL20B2にて高空間分解能4D-CT法を開発した。その結果、ゴム中のストレスを低減させたゴムは、摩耗の原因となる空隙(ボイド)の発生を抑制していることが鮮明に観察された。分子レベルでの破壊現象をシミュレーション、マクロな破壊現象を4D-CT法でトータルに解析することも可能になった。

これらの研究から「シリカ界面ポリマー構造運動」、「硫黄架橋の不均一性・硫黄架橋長さ分布」、「シリカネットワーク運動」をコントロールし、タイヤ三大性能の向上が可能となる「ストレスコントロールテクノロジー」を開発し耐摩耗性を200%にする技術を確立した。

4D-CT法で観察したゴム破壊の様子。黒い部分がボイド発生部分。

4D-CT法で観察したゴム破壊の様子。黒い部分がボイド発生部分。

4D-CT技術と大規模分子シミュレーションによる破壊のトータル解析技術

4D-CT技術と大規模分子シミュレーションによる破壊のトータル解析技術

タイヤゴム材料は、まだ未解明な部分が多く存在する。住友ゴム工業では今後、国内の先端研究施設を活用することで、ゴム材料の様々な現象を解明し、高性能で経済性に優れたタイヤの開発が可能になるとしている。


発表資料

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