東京大学と東北大学の研究グループは、鉄系高温超伝導体について、これまで明らかになっていなかった超伝導電子の電子状態を解明した。純良単結晶に電子線を照射し、その照射量を増やすのに伴って超伝導電子の数が非単調に変化することを初めて観測したことにより、明らかになった。東京大学大学院新領域創成科学研究科の水上雄太助教、芝内孝禎教授(京都大学大学院理学研究科客員教授兼任)、東北大学金属材料研究所の橋本顕一郎助教らによる成果。2014年11月28日付けの Nature Communications に論文が掲載されている。
2008年に発見された鉄系超伝導体は、発見以降、短期間で膨大な量の研究がなされたが、その超伝導発現機構と密接に関係する超伝導電子の電子状態については未解明だった。今回の研究では、その電子状態が「s±(エス プラスマイナス)」型の対称性であることが明らかになった。
「s±」型の対称性は、磁気揺らぎを主な機構とする超伝導において提案されたもの。図は電子状態を議論する際に用いられる波数空間における超伝導ギャップの大きさを幅で示したもので、正の符号が赤、負の符号が青で表されている。大部分が正符号を持つ部位と、大部分が負符号を持つ部位とがそれぞれ分かれた構造をとる。
研究グループは、電子線を試料に照射するという新しい方法を用いて、試料内部にまんべんなく欠陥(不純物)を作り出した。この方法では、照射量を調整することにより系統的に不純物量を制御することができる。実験から、不純物量が増えるのに従い低温での磁場侵入長の温度に対する変化量が一度少なくなったあと、増大するという非単調な振る舞いが観察された。これは、超伝導電子の数がいったん増加し、次に減少に転じることを表している。このような非単調な超伝導電子の数の変化は、磁気揺らぎを媒介した機構で提案された「s±」型の対称性を持つ場合にのみ説明できる。
今後より高い温度での超伝導の実現をめざし、磁気揺らぎの機構を用いた超伝導体の設計指針につながることが期待される。
東京大学の発表資料
おすすめ記事
- MITとSRC、誘導自己組織化(DSA)による微細パターン形成を容易にするテンプレート設計法
- 東大、くしゃくしゃに折り曲げても動作する有機LEDを開発。世界最軽量・最薄
- ライス大、シリコン酸化膜とグラフェンによる透明・フレキシブルな不揮発性メモリを開発
- モナシュ大、高い弾力性を持つコルクに似た三次元グラフェン構造体を作製
