「なぜ細胞は、ナノチューブなど長過ぎる物体を無理に飲み込もうとするのか?」 ブラウン大の研究

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カーボンナノチューブ(CNT)など、長さのあるナノ材料を細胞が無理に飲み込もうとして壊れてしまうという現象があります。ブラウン大学の研究報告によると、この現象が起こる理由は「細胞表面がチューブの先端を小さな球体と誤認するため」であるといいます。同研究は、細胞がCNTや金ナノワイヤ、アスベスト繊維などとどのように相互作用するかを詳細に調べたものであり、CNTをドラッグデリバリーシステムにおける薬剤輸送体として用いる技術などにも有用な知見をもたらすとみられます。

細胞には近づいてきた物体を飲み込もうとする性質(飲食作用)がある。飲み込むには長過ぎる物体の場合でも、細胞表面が先端部だけを感知して球体の微粒子と誤認すると飲食作用が働いてしまうという ( Credit: Gao Lab/Brown University )

アスベストがヒトの細胞を害することは以前から知られており、長く尖ったアスベスト繊維が矢のように細胞に突き刺さっている様子も観察されてきました。しかし、アスベスト繊維やその他のナノ材料など、細胞が飲み込むには長過ぎる物体を、なぜ細胞が飲み込もうとするのかは、これまでよく分かっていませんでした。

この問題に取り組んできたブラウン大の研究チームが、分子シミュレーションと実験を通して明らかにしたのは、CNTのようなある種のナノ材料が細胞内に入り込むとき、先端部分がまず先に入り、その角度がほとんど常に90°になるということでした。結論としては、この位置取りのせいで、丸みのあるCNT先端部を、球状の微粒子であると細胞が誤認してしまうのです。そして、飲み込もうとしている物体があまりに長過ぎると細胞が気づくころには、事態はすでに手遅れになっています。

「まるで、人間が自分の身長よりも長い棒付きキャンディを食べようとするようなものです。そんなことすれば、体に突き刺さりますよね」とブラウン大の工学教授 Huajian Gao氏は言います。

この研究の重要性は、CNTのようなナノ材料が医療分野で有望視されているというところにあります。例えば、特定の細胞、あるいは人体の特定部位に薬剤を送り込むための輸送体としてCNTを利用する、などの技術が考えられます。ナノ材料と細胞との相互作用が完全に理解されれば、細胞に害を与えるのではなく治療に役立つ製品を設計できる可能性がでてくるのです。

Misrecognition: posted from Brown PAUR on Vimeo.

市販されているCNTや金ナノワイヤは、アスベスト繊維と同様に先端部が丸くなっており、その直径は10~100nm程度です。この大きさが重要なポイントで、ちょうど細胞が扱いやすいサイズになっているのだといいます。細胞がナノチューブに軽く触れると、受容体と呼ばれるタンパク質が行動を開始。ナノチューブの先端を細胞で包むために、細胞膜を寄せ集めて曲げはじめます。研究チームはこの一連の動作を「先端認識(tip recognition)」と呼んでおり、これが起こるとナノチューブは細胞表面に対して90°の角度を取るようになります。こうすることで、細胞が微粒子を飲み込むために必要なエネルギーが小さくなるからです。

細胞の飲食作用(エンドサイトーシス)は、一度始まると、後戻りができなくなります。数分以内に、細胞はナノチューブ全体を飲み込むことができないと気付いて、救急信号を発しますが、「この段階では、すでに手遅れ」とGao氏は言います。「救急支援要請が免疫反応の引き金となって、細胞に炎症を引き起こすんです」

研究チームは、粗視化分子動力学シミュレーションとキャップをした多層CNTを使って、細胞とナノ構造体との相互作用に関する仮説を立てました。ナノチューブと金ナノワイヤ、マウスの生細胞とヒトの中皮細胞を用いた実験では、ナノ材料が先端部分から先に細胞へ入り込み、ほぼ90%の割合で90°の角度になったと研究チームは報告しています。

「私たちは、ナノチューブが細胞との接地面積を稼ぐために横向きになろうとすると考えていました。しかし、シミュレーションでは、先端が完全に包み込まれるにつれて、チューブがまっすぐ立つ方向に徐々に回転していくことが明らかになりました」と研究報告の筆頭執筆者 Xinghua Shi氏は言います。「この結果は直感とは異なるものですが、主な原因は、細胞膜がチューブを包むにつれて曲げエネルギーが解放されるためです」

研究チームでは、先端が丸くないナノチューブや、ナノリボンのようなあまり剛性のないナノ材料でも、同様のことが起こるかどうかを研究したいとのこと。「興味深いことに、CNTの丸い先端部を切断して空洞が開いた状態にすると、チューブはまっすぐ立つかわりに、細胞膜に横付けになるのです」とShi氏は話しています。


発表資料

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「「なぜ細胞は、ナノチューブなど長過ぎる物体を無理に飲み込もうとするのか?」 ブラウン大の研究」への2件のフィードバック

  1. 一点だけ気になります。
    commercially available
    市販の、購入可能な
    ではないでしょうか。

  2. >Joe Optimistさん

    修正しました。辞書的には「商用化可能な」もありますが、CNTもナノワイヤも実際に材料として販売されているので、ご指摘の訳のほうが適切だと思います。

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