ペンシルバニア州立大学の研究チームが、ヒトの細胞内部で人工ナノモーターをコントロールする技術を開発した。超音波を使ってナノモーターの前進運動や回転を制御できる。磁気による操縦も可能であるという。癌の治療やドラッグデリバリーへの利用が期待される。2014年2月12日付けの Angewandte Chemie International Edition に論文が掲載されている。
今回作製された人工ナノモーターは、直径300nm、長さ3μm程度の金-ルテニウムロッドでできている。生きた細胞の表面に付着させたロッドは、24時間以上かけて細胞内部に取り込まれる。細胞内に入ったロッドは、4MHzの超音波に共振してロッドの軸方向に前進したり、回転したりする人工ナノモーターとして機能する。磁気を使って推進方向を操作することも可能であるという。
研究チームは以前から人工ナノモーターの研究を行っていたが、これまで開発してきたモーターは推進エネルギーとして化学燃料を使っていた。このため、細胞内部でモーターを駆動させることができなかった。今回、超音波による駆動を実現したことで、細胞を生かしたまま細胞内部でモーターを動かすことができるようになった。
実験では、ヒーラ細胞(子宮頸癌組織から分離された不死細胞株)の内部に取り込まれた人工ナノモーターに超音波を当てて、モーターが細胞小器官の周囲を動き回ったり、衝突したりする様子を観察した。モーターによって細胞の中身をかき混ぜたり、細胞膜に穴を開けたりすることもできるという。
超音波や磁気による制御された動き以外に、個々の人工ナノモーターが勝手に動き回る自律運動現象も観察されている。人工ナノモーターのこのような自律運動は、癌細胞の選択的な破壊などに応用できる可能性がある。
研究リーダーの材料化学・物理学教授 Tom Mallouk 氏は、人工ナノモーターの将来的な目標について、昔のSF映画「ミクロの決死圏」に出てくる潜航艇のように体内を移動して治療活動を行えるようにすることであると説明している。
ヒーラー細胞内部で活発に動き回る人工ナノモーター (Mallouk Lab, Penn State)
ヒーラ細胞とナノモーターの集合体が音波の節線部分に沿って一列に並ぶ様子 (Mallouk Lab, Penn State)
発表資料
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