ロンドン・ナノテクノロジー・センター(LCN)とブリティッシュコロンビア大学の研究チームは、青色顔料である銅フタロシアニン(CuPc)において電子の量子重ね合わせ状態が非常に長い時間持続することを発見した。安価な顔料を将来の量子コンピュータの記録媒体にできる可能性がある。2013年10月27日付けの Nature に論文が掲載されている。
有機半導体の一種であるCuPcには、これまで量子コンピュータ用の量子ビット記録材料として検討されてきた様々なエキゾチック分子と比べ、ありふれていて低コストかつ化学修飾が容易といった利点がある。特に、簡単に薄膜化できることは、デバイス化を進める上で従来の材料よりも有利であると考えられる。
論文によると、薄膜化したCuPcのエネルギー緩和時間(T1)および位相緩和時間(T2)を測定したところ、絶対温度5KのときT1が59ミリ秒、T2が2.6マイクロ秒となった。絶対温度80K(液体窒素の沸点より高温)では、T1が10マイクロ秒、T2が1マイクロ秒だった。これらの結果は、同じ温度範囲での単分子磁石と比較しても、CuPc薄膜の緩和時間が長く持続することを示している。
T1が長いことは、CuPc薄膜がプラスチック基板上の有機デバイスにおける古典的ビット記録媒体として有用であることを示唆している。一方、T2の長さは、量子ビットの持続時間をどれだけ取れるかに対応している。今回測定されたT2は、スピン操作に用いられるパルスの持続時間よりもニ桁以上大きいため、CuPc薄膜が量子情報処理用の有望な材料であることを示唆するものであるという。
発表資料
おすすめ記事
- 「有機太陽電池の変換効率はもっと上がる」英LCNが新手法使って分析
- 東大、くしゃくしゃに折り曲げても動作する有機LEDを開発。世界最軽量・最薄
- MITとSRC、誘導自己組織化(DSA)による微細パターン形成を容易にするテンプレート設計法
- ハーバード大、20倍以上伸びる丈夫なハイドロゲル材を開発。人工軟骨に応用可能
