筑波大ら、白金フリー酸化物垂直磁気記録材料の薄膜化に成功。安価で高性能なHDD記録媒体に期待

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筑波大学 数理物質系 新関智彦助教、柳原英人准教授、喜多英治教授らのグループが、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所・構造物性研究センター 中尾裕則准教授、北海道大学大学院 理学研究院 小池和幸教授らと共同で、量産に適した成膜手法であるスパッタリング法を用いて、良質なコバルトフェライト単結晶薄膜を作製することに世界で初めて成功した。

図1 垂直磁化を示す磁性材料の磁化と磁気異方性(青い実線より上部)。Ku値が大きいほど、高密度記録に適した材料といえる (出所:筑波大/KEK/北海道大学)

この薄膜について磁気特性および結晶構造の評価を行ったところ、白金などの貴金属を含む磁性材料に匹敵する強い垂直磁気異方性を有することを見出した(図1)。貴金属を用いない高性能な垂直磁気記録方式のHDDの記録媒体を実現できる可能性が示された。2013年10月14日付けの Applied Physics Letters に論文が掲載される。

図2 スピネル型結晶構造。青丸に鉄、緑丸に鉄またはコバルト、紫丸には酸素が位置する (出所:筑波大/KEK/北海道大学)

 
コバルトフェライトは、比較的入手の容易な元素で構成された酸化物である。コバルトや鉄を中心とし、酸素原子が頂点を占める四面体と八面体の組み合わせからなる原子配置(スピネル型結晶構造)を形成している(図2)。この格子をひずませることで、強い垂直磁気異方性が発現することは、従来から現象論的に予想されており、各国の研究グループが良質な薄膜を成膜する方法を検討してきたが、物性や構造の制御が難しく、実際に強い垂直磁気異方性を実現できた報告はなかった。今回の研究ではコバルトフェライトの成膜方法に関して検討を行い最適化した結果、14.7 Merg/cm3もの大きさの垂直磁気異方性の発現を初めて確認した。この異方性の大きさは、次世代垂直磁気記録材料として十分利用できる。

図3 コバルトフェライト薄膜と酸化マグネシウム基板の結晶格子定数 (出所:筑波大/KEK/北海道大学)

 
結晶を歪ませるためには、形状や大きさ(格子定数)の異なる結晶格子を持つ物質の上に重ねるという方法が知られている。今回の研究では、酸化マグネシウム単結晶MgOを基板とし、その(001)結晶面上にCoxFe3-xO4薄膜を成膜した。成膜方法は、HDD媒体の製造に利用されているマグネトロンスパッタリング法で、コバルト鉄合金ターゲット(Co:Fe = 1:2および 1:3)を用い、反応ガスとして酸素を導入しながら成膜を行う手法を用いた。特に酸素導入量によってMsが大きく変化することから、酸素導入量をパラメータとしてMsが最大となるよう条件を変えて、最適な成膜条件を見出した。

作製した試料を、KEKフォトンファクトリーBL-4C(放射光科学研究施設)で格子定数、格子歪などの構造評価を行った。図3に膜厚50nm、Co0.75Fe2.25O4の薄膜の逆格子マップを示す。基板に用いた MgO と比べてCoxFe3-xO4の格子定数は約0.5%小さいため、MgO上に成長するCoxFe3-xO4薄膜は界面に沿ってその格子が引っ張られ、膜が成長する膜厚方向に対しては逆に格子が縮んでいることが確認された。

図4 コバルトフェライト薄膜の磁化曲線。赤線:膜面垂直方向に磁場を印加した時の磁化曲線。青線:膜面内に磁場を印加した時の磁化曲線 (出所:筑波大/KEK/北海道大学)

 
また、室温におけるCo0.75Fe2.25O4薄膜のMsは430 emu/cm3で、バルクのそれと同等の値(Ms = 410 emu/cm3)となり、良質なCoxFe3-xO4薄膜が得られた(図4)。

図5 磁気トルク曲線。(a)はx=0.75,(b)はx=1の組成。曲線の振幅から磁気異方性Kuが求まる (出所:筑波大/KEK/北海道大学)

 
一方、磁気トルク曲線(図5)から読み取れる垂直磁気異方性(Ku)は、印加磁場140 kOeにおいてKu = 9 Merg/cm3であった。コバルトの濃度を高めたCoFe2O4薄膜では、Ku = 10 Merg/cm3を示した。さらに詳細な解析を進めたところ、この試料はKu = 15 Merg/cm3にも達する垂直磁気異方性を持っていることが明らかになった。このKuの値は、現在垂直磁気記録媒体として用いられているコバルトクロム白金合金CoCrPtと比べて十分に大きなものであり、白金を含まない次世代記録媒体材料として有望である。

今後はHDDメーカーとともに、今回の材料を白金フリー次世代磁気記録材料の有力な候補として、磁気特性や記録媒体としての適性について詳細に検討し、実用化に向けてさらなる磁気特性の向上を目指す。また、CoxFe3-xO4薄膜は数少ない絶縁性垂直磁化材料であることから、トンネル磁気抵抗素子における強磁性絶縁障壁層やスピン波の導体などのスピントロニクス材料としての展開も期待される。


KEKの発表資料

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