「SOFC電解質内の酸素イオン伝導は量子トンネル効果」阪大が解明。低温動作可能な新材料設計に成功

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大阪大学大学院工学研究科の笠井秀明教授らの研究グループが、燃料電池の中で発電効率が最も高い固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質内部における酸素イオン(O2-)伝導の本質が量子トンネル効果であることを解明した。また、この知見を基に、300℃の低温作動が可能なSOFC用電解質の新材料とデバイス構造の理論設計に成功した。研究成果は、沖縄で開催される 13th International Symposium on Solid Oxide Fuel Cells(SOFC-XIII、10月8日)および「真空」10月号(Journal of the Vacuum Society of Japan Vol. 56, No. 10)で発表される。

(左)SOFCの構造と動作原理、(右)CeO2の構造 (出所:大阪大学)

(左)CeO2のCeの一部(約4%)をSmと置換、(右)Sm近傍の酸素イオン伝導の様子 (大阪大学)

 
SOFCの発電メカニズムは次のように進行する。まず、空気極(正極)に供給された空気中の酸素が電子を受け取り酸素イオンとなる。次にセラミックス(固体酸化物)の電解質膜中を酸素イオンが空気極から燃料極に移動する。燃料極(負極)では、水素や一酸化炭素と酸素イオンが反応し、水と二酸化炭素が生成する。その際に放出された電子によって発電し、発電を終えた電子は空気極に移動する。

一般に750℃以上の高温作動型SOFCでは、マクロスケールからナノスケール領域に及ぶ電解質の損傷・劣化挙動が問題となっており、作動温度の低温化が望まれている。ただし、作動温度が低くなると、電解質の抵抗増大や電極近傍の化学反応が不活発になるため、発電性能が低下する。これは、温度低下とともに化学エネルギーから電気エネルギーに変換できる理論効率の最大値は増大するが、その一方で、電解質の抵抗や電極境界領域での反応抵抗が大きくなり、発電効率が低下するためである。よって、低温でも十分低い電気抵抗を示す電解質の研究開発が必要となる。

(上)酸素イオンに対するポテンシャルエネルギー、(中)酸素イオン伝導の量子トンネル効果、(下)酸素イオン伝導の波動関数 (出所:大阪大学)

今回の研究では、笠井教授らが独自に確立した「量子ダイナミクス理論」をSOFCに適用し、300℃の低温で動作する電解質として、サマリウムをドープしたセリア系新材料(SDC:Samarium-Doped Ceria)を量子シミュレーションによって設計した。

SDCは、化学式Ce1-xSmxO2-δで表され、酸素イオンの伝導パスが容易に形成されるという特徴がある。SDCに対して一軸応力を印加すると、セル体積を僅かに変形させる二軸応力歪が発生する。これにより、電解質内部における酸素イオンの移動が容易になり、伝導率も向上するため300℃という作動温度が実現するという。

CeO2のCeの一部をSmで置換することにより、Sm近傍では熱励起型の酸素イオン伝導よりも量子トンネル型の酸素イオン伝導が起こりやすくなる。研究チームでは、量子トンネル効果を生起しやすい材料を設計することで、動作温度を室温に近づけたSOFCの実現も可能であると考えているという。

笠井教授らの量子ダイナミクス理論は、電子系と原子核の両方の量子運動状態を取り扱う量子第一原理計算を行う理論。固体表面および固体内部の動的反応を記述することができる。従来の第一原理計算では、原子核を静止させた古典力学で扱い、電子系の量子運動状態のみを計算していた。


PDF形式の発表資料

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