北海道大学電子科学研究所・三澤弘明教授の研究グループが、紫外、可視、近赤外領域の広い波長域で光電変換可能な金ナノ構造/酸化チタン電極の作製に成功した。人工光合成において重要な役割を持つ水の光酸化に関して、可視光だけでなく近赤外光によって酸素と過酸化水素を発生させる系を実現した世界初の成果であるという。赤外光を利用した太陽電池や、人工光合成への応用が期待される。2013年9月6日付けの NPG Asia Materials に論文が掲載されている。
透明半導体である酸化チタン単結晶基板上に、光アンテナ構造として髪の毛の太さの1/1000程度のサイズの金ナノ構造(100nm×200nm×30nm)を高密度に配置した作用電極を作製し、白金電極を対極、飽和カロメル電極を参照電極として、光電気化学測定を行った。
金ナノ構造/酸化チタン電極上への光照射に基づいて紫外、可視、近赤外の幅広い波長域において光電変換による光電流が観測されるとともに、酸化チタン電極から酸素と過酸化水素が発生することが実験的に立証できた。酸素や過酸化水素の発生は、水の光酸化に基づいており、光電流量から見積もられた物質量(モル)とほぼ等量の酸素や過酸化水素の発生が観測されたことから、化学量論的に水の光酸化反応が進行していることが明らかになった。過酸化水素は、いずれの波長域でも発生効率80%以上となった(図1)。
動作原理は、金の電子が光アンテナによって効率的に集められた光子によって高いエネルギーレベルまで励起され、酸化チタンへの電子移動と形成された複数の正孔が水の酸化反応を誘起しているものと考えられる(図2)。一般的に水の酸化反応は、4電子または2電子反応であるため過電圧を要し、可視光照射でも容易ではないが、今回の研究ではエネルギーの小さい波長1000nmの近赤外光照射(1.24eV)においても、水の酸化反応が進行した。水の電気分解は1.23Vで起こるので、今回極めて小さい過電圧で水の光酸化が起こることを実証したことになる。植物の光合成でも水の酸化反応には波長660nmの光が利用されていることを考慮すると、同研究は、これまでエネルギーが低すぎて使われてこなかった赤外光の有効利用につながる成果といえる。
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