分子科学研究所の山本浩史教授、須田理行助教、理化学研究所らのグループが、シリコン半導体に用いられている歪み制御技術を用いて、有機物に電圧を加えることで動作する超伝導スイッチを開発した。低コスト・省エネルギーで製造可能なフレキシブルデバイスの開発につながる可能性がある。2013年8月23日付けの Nature Communications に論文が掲載されている。

デバイス模式図とスイッチングの様子。左のOFF状態ではκ-Brが絶縁体(桃色)となっているが、ゲート電圧をかけると超伝導体(黄色)が島状に出現し、島と島が互いにつながるとスイッチがONになる (出所:分子科学研究所)
研究グループは今回、有機物質κ-Br (正式名称はκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br) を用いて電界効果トランジスタを作り、その歪みをゲート基板によって制御することによって超伝導スイッチを実現した。現在シリコンデバイスで広く用いられている歪み技術では、ゲルマニウムとシリコンの結合長ミスマッチによる歪み生成が用いられているが、今回の実験では有機物κ-Brと無機ゲート基板(ニオブをドープしたチタン酸ストロンチウム:Nb-SrTiO3)との熱膨張係数ミスマッチによって歪み制御を行っている。
この技術により、κ-Brの歪みをちょうど超伝導と絶縁体との間で相転移が起きるぎりぎりのところに制御する。このような状況でゲート電圧(VG)をかけて電場を加えると、電圧が9Vのところで超伝導状態へと変化して、電気抵抗が突然下がるという現象が観測された。
有機物を使ったトランジスタは、ディスプレイなどの大面積装置を作る際に、印刷や塗布で製造できるため、安価で環境にやさしい電子回路として注目されている。また、素材が軽くて柔らかいため、落ちても割れないフレキシブルな電化製品を作るのに向いているとされるが、これまでの有機トランジスタは、スイッチがONになったときに流れる電流が小さいことが、動作速度を上げる時のネックになっていた。
今回開発したデバイスでは、超伝導を使って、有機トランジスタでも大きなON電流が流せることが証明された。同じような原理で金属状態と絶縁体状態をスイッチする有機デバイスが室温で動作するようになれば、これまで有機トランジスタの弱点であったON電流の問題を解決し、多くのフレキシブルデバイスに採用されるようになると考えられる。
分子科学研究所の発表資料
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