米国ワシントン大学と英国ケンブリッジ大学の研究チームが、有機太陽電池を高性能化する新たな方法を発見した。セル中の電子のスピンを操作して電子と正孔の再結合を防ぐことによって、変換効率の向上が可能になるという。有機半導体デバイスの開発において、新たな設計指針になると期待される。2013年8月7日付けの Nature に論文が掲載されている。
有機太陽電池の問題の1つとして、材料として使われる有機半導体の性能が分子レベルでバラつくという現象があるが、こうしたバラつきが生じる理由はこれまでよく分かっていなかった。研究チームは今回、有機太陽電池セル内での電子の動きと相互作用を追跡するため、レーザーを利用した高感度測定技術を開発。その結果、分子材料の性能バラつきが、スピンの特性の違いに由来していることを突き止めたという。
図 a は、有機太陽電池における光物理過程の状態図である。プロセス 1 では、光励起によって一重項励起子(S1)が生成される。プロセス 2 では、ヘテロ接合部で一重項励起子がイオン化し、スピン一重項での電荷移動状態(1CT)が形成される。1CTは、高効率で分離して自由電荷(FC)となる。

(a)有機太陽電池における光物理過程の状態図と(b)今回使用されたドナー/アクセプターの分子構造図 (Akshay Rao et al., Nature (2013) doi:10.1038/nature12339)
プロセス 3 では、二分子間での電子と正孔の再結合によって、スピン一重項での電荷移動状態(1CT)とスピン三重項での電荷移動状態(3CT)が生成される。その生成確率は、スピン統計則に従って一重項が25%、三重項が75%となる。1CTは、プロセス 6 のようにそのまま基底状態(S0)へと戻ることができる。一方、3CTについては、プロセス 4 で示すようにそのまま基底状態に戻ることができず、エネルギー状態として取りやすい三重項励起子(T1)へと緩和する。プロセス 5 では、3CTが緩和して生成されたT1が、高効率の三重項-電荷消滅を通して基底状態へと戻る。
今回の研究では、条件を整えた場合、電荷移動状態から再イオン化によって自由電荷を生成するのに必要な時間が、3CTからT1への緩和にかかる時間よりも短くなることが明らかになった。従って、電荷移動状態から自由電荷へと再度戻してやることによって、3CTからT1への緩和を抑制できることになる。この操作によって電子と正孔の再結合を防ぐことができるため、有機太陽電池や有機ELのデバイス性能を向上できると考えられる。図 b は、今回の研究で使用されたドナーとアクセプターの分子構造図。ドナーには高分子 PIDT-PhanQ および PCPDTBT が、アクセプターには数種類のフラーレン誘導体が用いられている。
発表資料
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