東大、赤さび(酸化鉄)改良して高効率の太陽光発電

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東京大学工学系研究科 田畑仁教授、関宗俊助教らが、安価で身近な素材である赤さび(酸化鉄)を改良することで、高効率の太陽光発電を実現した。ロジウム入りの赤さび薄膜を用いた光電気化学セルで、波長700~950nmの近赤外域で光電流を発生させることに成功した。太陽電池や水素生成用光触媒への応用が期待される。研究チームは、この研究成果により、第35回応用物理学会優秀論文賞を受賞した。論文は、2012年11月6日付けの Applied Physics Express に掲載されている。

α-Fe2O3を用いた湿式太陽電池 (出所:東京大学)

酸化第二鉄(ヘマタイト、α-Fe2O3)いわゆる赤さびは、日常で最も目にすることが多い酸化物であり、地球上に無尽蔵に存在し、人体に無毒で環境親和性にも極めて優れている。α-Fe2O3は可視光のエネルギーに相当するバンドギャップエネルギー(Eg~2.2eV)を持つため、半導体電極の候補材料として注目を集め、多くの研究が行われてきた。光触媒として実用化されている酸化チタン(TiO2)が波長380nm以下の紫外光にしか応答しないのに対して、α-Fe2O3には可視光を吸収できる性質がある。ただし、波長600nm以上の光は透過してしまうため、光電変換材料としては太陽光エネルギーの半分以上を無駄にしてしまう。

地表での太陽光スペクトルとα-Fe2O3のバンドギャップ (出所:東京大学)

 
研究グループは今回、電子論的見地から、α-Fe2O3の Fe の一部を Rh(ロジウム)で置換するとバンドギャップが小さくなることを見出した。Fe2O3の価電子帯は酸素の 2p 軌道から成り、伝導帯は主に Fe の 3d バンドから構成される。ここに Rh を導入すると、Rh-4d 軌道が O-2p 軌道と混成し、バンドギャップエネルギーが狭帯化する。Fe の10%を Rh に置換するだけで、バンドギャップは 2.2eV から 1.5eV に減少する。これは、約950nmの波長に相当し、可視域だけでなく近赤外域でも光吸収が起きるようになった。

(左)Rh 置換 α-Fe2O3のバンド構造。(右)SnO2下部電極およびα-Fe2O3半導体層の結晶構造と界面における格子整合 (出所:東京大学)

 
結晶工学的な観点から、α-Fe2O3の光電特性の向上も試みた。α-Fe2O3は異方的な電気伝導性を示すことが知られ、特に [110] 方向に最もキャリアが動きやすくなっていることが確認されている。下部電極上で [110] 方向にα-Fe2O3層を成長させることができれば、光を吸収したときに生成する電子-正孔対の励起寿命が最大となって、光電変換効率が大きく増加する可能性がある。研究グループは、下部電極とα-Fe2O3層の界面での格子整合や薄膜成長条件、製膜後の熱処理の条件を詳細に検討し、下部電極(Ta 添加 SnO2単結晶層)の上に高品質な Rh 置換 α-Fe2O3層を [110] 方向にエピタキシャル成長させることに成功した。その結果、Rh 置換α-Fe2O3エピタキシャル層を用いた光電気化学セルにおいて、近赤外域だけでなく可視光域においても従来のα-Fe2O3を凌駕する光電変換効率を実現した。

Rh置換α-Fe2O3湿式太陽電池の光電特性 (出所:東京大学)

 
具体的には、Rh 置換 α-Fe2O3(Fe2-xRhxO3)の光電変換効率は、波長610nmでx=0.2のとき2.35%となった。また、波長340~850nmの範囲でx=0.1およびx=0.2としたとき、従来のα-Fe2O3の光電変換効率を大きく上回った。

これまでのα-Fe2O3半導体光電極の研究では、その表面構造を制御して光吸収の増大を狙うことに主眼が置かれていた。今回の研究は、結晶工学的手法やバンドエンジニアリングが半導体電極の特性向上に有効であることを実証したものであり、太陽光エネルギー利用に向けた新たな物質設計指針を提示したといえる。


東京大学の発表資料

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