首都大・京大ら、磁性を持たないパラジウム-コバルト酸化物で巨大磁気抵抗効果を実現。単純金属を磁気センサに応用できる新メカニズム

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首都大学東京、京都大学、大阪市立大学、大阪大学、広島大学の研究チームが、非磁性の単純金属であるパラジウム-コバルト酸化物の磁場による電気抵抗の変化(磁気抵抗効果)を測定し、巨大磁気抵抗効果が現れることを発見した。磁場がゼロのときと比べ、磁場中では電気抵抗が最大で 350 倍まで増加した。ハードディスクなどのデータ読み出しに使われている磁性体多層膜の巨大磁気抵抗効果に匹敵する非常に大きな抵抗変化となっている。

PdCoO2の結晶構造。パラジウム(Pd)の電気伝導層とコバルト-酸素から成る絶縁性のブロック層(CoO2)が交互に積層することで二次元的な電子状態が実現している (出所:首都大学東京)

パラジウム-コバルト酸化物のような単純な金属で数百倍もの巨大磁気抵抗効果が現れるとはこれまで考えられていなかった。電気伝導現象の基礎研究上興味深い成果であるだけでなく、単純金属でも磁気センサに応用できる可能性を初めて示したものであるといえる。2013年8月2日発行の Physical Review Letters に論文が掲載される(リンク先は arXiv )。

従来から知られている巨大磁気抵抗効果は、物質中の元素が微小な磁石(磁気モーメント)としての働きを持つ状況で、その磁石と伝導電子の相互作用を利用することによって生み出される。一方、磁気的な性質を持たない金属も、運動する伝導電子が磁場から受ける力(ローレンツ力)を起源とする磁気抵抗効果を示すが、その大きさは非常に小さいものしか知られていなかった。

PdCoO2の単結晶の写真。図の矢印の方向に磁場をかけると、紙面に垂直な方向の電気抵抗に巨大な磁気抵抗効果が現れる (出所:首都大学東京)

 
今回、首都大理工学研究科の高津浩助教、京大大学院理学研究科の米澤進吾助教らは、パラジウム-コバルト酸化物 PdCoO2 の単結晶を作製し、その層間方向の電気抵抗率について、磁気抵抗効果の温度依存性・磁場強度依存性・磁場角度依存性を調べた。その結果、非常に大きな磁気抵抗効果が起こることを発見した。絶対温度 2K ・磁場 14T の条件下では、磁気抵抗効果による電気抵抗の変化量が最大でゼロ磁場での電気抵抗の値の 350 倍に達した。比較的高い温度でも大きな磁気抵抗効果は観測され、例えば絶対温度 200K ・磁場 14T でも 1.5 倍、室温でも 9T で約 6 %の磁気抵抗効果が観測できた。これまで知られていた単純金属の磁気抵抗効果は、極低温条件下 10T 程度の磁場でせいぜい数倍だった。

PdCoO2の単結晶の磁場中電気抵抗の温度依存性。挿入図は第一原理計算によって得られた PdCoO2のフェルミ面と結晶軸方向、印加磁場 H の関係 (出所:首都大学東京)

 

今回発見された巨大な磁気抵抗効果のメカニズムの模式図。磁場中(右図)では、伝導電子がローレンツ力による蛇行運動のためにパラジウム層内に強く閉じ込められるようになるため、層と層の間を電子が飛び移りにくくなって電気抵抗が大きくなる (出所:首都大学東京)

 
この現象の原理を明らかにするため、大阪市大大学院理学研究科の吉野治一准教授と村田惠三教授は、広大大学院先端物質科学研究科の獅子堂達也助教と阪大産業科学研究所の小口多美夫教授の第一原理計算を基に、ローレンツ力に起因する磁気抵抗効果のモデル計算プログラムを開発した。このプログラムによる計算結果が実験結果をよく再現したことから、PdCoO2 の磁気抵抗効果はローレンツ力に起因するものであると考えられるという。PdCoO2 の特徴は、パラジウム原子の層とコバルト-酸素の層が交互に並んだ積層構造を持っていることであり、物質中の伝導電子はパラジウム原子の層に閉じ込められて二次元的に振舞う。磁場中では、伝導電子はローレンツ力による蛇行運動のためにパラジウム層内に強く閉じ込められるようになり、層と層の間を電子が飛び移りにくくなって電気抵抗が大きくなると説明できる。特に、PdCoO2 では層内で電子が非常に動きやすいため、この閉じ込め効果が強くなる。フェルミ面の形が六角柱状であることも閉じ込め効果を強くする働きがあるという。

今回発見されたメカニズムを利用すれば、人工的に単純金属の二次元構造を作ることで、磁性元素を使わずに大きな磁気抵抗効果を示すデバイスを作製できる可能性がある。パラジウムを他の元素に置き換えることで電気伝導性を制御したり、コバルトを他の元素に置き換えることで絶縁性や磁性を制御したりできると期待できるため、研究チームは、PdCoO2 に対して元素置換を行うことで電気伝導の大きさや次元性の変化が巨大磁気抵抗に与える影響を実験的に明らかにしていきたいという。同様なメカニズムによる巨大な磁気抵抗効果を示す物質系の探索も行っていきたいとしている。


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