東京大学 大学院工学系研究科の染谷隆夫教授、関谷毅准教授らが、くしゃくしゃに折り曲げても動作する新しい光源として超薄膜有機LEDの開発に成功した。重さは世界最軽量の 3g/m2、厚さも世界最薄の 2μm となっている。表面が粗い 1μm 級の高分子フィルムにダメージを与えず有機LEDを製造する低温プロセスによって実現した。2013年7月28日付けの Nature Photonics に論文が掲載されている。
厚さ 1.4μm の極薄のPETフィルムに有機半導体材料を積層する独自の作製技術を確立し、世界最軽量かつ最薄の柔らかい有機LEDを作製した。この有機LEDは、発光素子部を折り曲げた際に素子部に掛かる歪が極めて小さくなるように構造が最適化されているため、くしゃくしゃに折り曲げても電気的な性能が劣化せずに動作するという。最小折り曲げ半径は 10μm 、有機LEDの輝度は 100cd/m2 となっている。
透明電極として高温・高エネルギープロセスが必要な酸化インジウムスズ(ITO)を利用せず、低温かつ低損失で形成可能な導電性高分子ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)を電極に利用した。陰極には、フッ化リチウム(LiF)薄膜を挿入したアルミニウム電極を用いた。また、伸縮可能なゴムの上に柔らかい有機LEDフィルムを張り付けることで、アコーディオンのような波型形状の有機LEDを実現した。100%伸縮可能でゴムのように伸縮自在な発光デバイスとなっている。
研究グループは、厚さ 1μm 級の高分子フィルム上に有機太陽電池を均一に形成することに成功している(2012年4月3日付け Nature Communications )。また、全体の厚みが 2μm の世界最軽量・最薄の柔らかい有機電子回路の開発にも成功している(2013年7月24日付け Nature )。今回の研究成果と併せると、有機LED、有機太陽電池、有機トランジスタという3つの有機デバイスを厚さ 1μm 級の高分子フィルムに作製できるようになった。これらの有機デバイスは、同じような製造プロセスで作製できるため、すべての有機デバイスを1枚の高分子フィルム上に集積化することが可能であり、従来の有機エレクトロニクスを格段に薄型化・軽量化することができる。
こうした薄型化・軽量化技術により、有機LEDを光源とした薄型センサへの応用が期待される。血中酸素濃度、血流量、脈波などの生体情報計測装置に適用することで、装着してもストレスなく計測できる装着感のないヘルスケア・デバイスなども実現すると考えられる。
発表資料
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