MIT、超高感度微粒子と化学的バーコード使って短時間で癌診断

このエントリーをはてなブックマークに追加
Share on Facebook

今から10年ほど前、細胞内で遺伝子の発現を活性化したり不活性化したりする働きを持つ、マイクロRNAという遺伝物質が発見されました。さらに最近になって、癌細胞内でのマイクロRNAの異常な働きが、腫瘍を制御不能な状態で成長させる要因となることも分かってきました。

生細胞内で癌などの病気に関与しているマイクロRNAを微粒子技術によって検出する ( Image: Stephen Clifford Chapin )

今回、MITの研究チームが開発したのは、白血病患者の体内で異常なレベルを示しているマイクロRNAを検出する方法です。研究チームは、この方法を用いることで、白血病の診断・経過観察のための簡易な血液検査技術が開発できるとしています。

この技術は、数多くの微粒子から成り立っており、微粒子一つ一つが、それぞれ特定の型のマイクロRNAを捕まえるように設計されています。これらの微粒子を血液サンプルまたは精製されたRNAに曝すことによって、マイクロRNAのプロファイルを行うことができ、癌があるかどうかが分かるのだといいます。肺癌、すい臓癌など、癌の種類によって、マイクロRNAにそれぞれ固有の特徴があるためです。

マイクロRNAは通常、ヌクレオチド20基程度の長さしかありませんが、癌以外にも、HIV、アルツハイマー症、糖尿病、循環器疾患など、様々な病気に関与しています。ヒトゲノム(全遺伝情報)には、約1000種類のマイクロRNAが含まれており、DNAによるタンパク質構築指示を伝える働きをするメッセンジャーRNAをブロックすることで遺伝子の発現を微調節していると考えられています。

研究チームのメンバーで、MIT化学工学教授の Patrick Doyle氏は、マイクロRNAのレベル測定に潜在的利益があることは明らかなものの、その検出には多くの問題があるとします。「決め手になるような標準的な手法はなく、研究者ごとに違ったやり方をしているのが現状」とDoyle氏は話します。

現在、ほとんどのマイクロRNA検出技術で必要とされているのが、血液や組織のサンプルからRNAを分離精製することですが、これには多大な時間が費やされます。このため、血液サンプルからマイクロRNAを直接検出できれば、そのほうが遥かに効率的とDoyle氏は言います。

Doyle氏らのチームは、4種類の異なる癌に罹患している4人から採取したRNAにおけるマイクロRNAの調節異常を、およそ200μm長の微小なハイドロゲル微粒子を使って短時間で検出することができた、という内容の論文発表を今年の1月に行いました。

ハイドロゲルは、親水性ポリマー鎖の網目から成る物質であり、核酸の連結を促す働きを持っています。研究では、ハイドロゲル微粒子を、それぞれ数百万本の等質なDNAらせんで修飾。そのDNAは、標的とする特定のマイクロRNAの配列と相補的な配列としました。

微粒子との結合後にマイクロRNAが蛍光を発している様子。写真左は、検出されたマイクロRNAの種類を表すバーコード ( Image: Stephen Clifford Chapin )

ハイドロゲル粒子が血液サンプルに混合されると、どのマイクロRNAも、それと相補的なDNAと結合します。また、DNAらせんには、後から加えられる蛍光プローブと結合する短い配列も含まれています。このため、専用のマイクロ流体スキャナを用いて微粒子ごとの蛍光を短時間で測定することで、どれだけの量のマイクロRNAが存在しているかが分かるのです。さらに、スキャナは、各微粒子に刷り込まれた化学的な「バーコード」も読み取っており、これによって、検出されたマイクロRNAの種類が分かります。このプロセス全体にかかる時間は、3時間未満とのこと。

研究チームが次に発表した論文は、微粒子が発する蛍光を増幅することによって、微粒子の感度を向上させるというものでした。感度向上は、ゲル微粒子に捕捉された標的マイクロRNAに複数のDNA標識配列を結合させることで実現されました。この標識配列は、蛍光プローブと結合させることも可能であるといいます。

Doyle氏によると、このアプローチは、マイクロRNAの検出に微粒子を利用する他の技術と比べ、数百倍の感度があるとのこと。また、マイクロRNA1万個程度から検出が可能であり、1回の血清分析に必要なサンプル量はわずか25ピコリットルであるといいます。

イェール大学医学部 遺伝学助教のJun Lu氏は、次のようにコメントしています。

「報告された感度ならば、血清その他の体液中に存在する低レベルのマイクロRNAの検出が可能であり、非常に有用な技術といえるでしょう。体液の採取に当っては患者への侵襲的施術を最低限に抑える必要があるからです」

DNAを標識に用いるというアプローチは、蛍光プローブでマイクロRNAを直接標識する従来の技術と比べても、より高い精度を実現するものです。異なるマイクロRNA配列は、それぞれ異なる形をとることがあり、そのことが蛍光プローブとの結合のしやすさに影響を及ぼすからです。

Doyle氏は現在、医学研究者と協力し、循環器疾患やHIV研究へのマイクロRNA検出技術の使用について調査を開始したところです。研究チームは微粒子の作製技術とスキャン技術で特許を取得しており、商用化に向けたシステム開発も計画しているそうです。


発表資料

おすすめ記事

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...