名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の伊丹健一郎教授らが、新しい形態のうねる炭素ナノ分子「ワープド・ナノグラフェン」の化学合成に世界で初めて成功した。フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンに次ぐ第4のナノカーボンと位置づける。米国ボストンカレッジとの共同研究による成果。2013年7月15日付けの Nature Chemistry に論文が掲載されている。
ワープド・ナノグラフェンは、80個の炭素原子と30個の水素原子で構成される新規な炭素ナノ分子。これまでのナノカーボン材料には見られない独特なうねりのある構造を持っている。
伊丹教授らが独自に開発したカップリング触媒パラジウム・オルトクロラニルを用いて、市販の化合物コラニュレン(C20H10)から2段階で化学合成できる。まず、パラジウム・オルトクロラニル触媒による直接カップリング反応をコラニュレンに対して適用し、5個のビフェニルユニットを一度に導入する。得られた風車状の化合物に酸化剤(DDQ)を作用させると、縮環反応が進行して5個の六角形構造と5個の七角形構造が新たに生成し、大きく湾曲したワープド・ナノグラフェンが収率良く合成できるという。
研究チームは、ワープド・ナノグラフェンの構造を、単結晶X線結晶構造解析によって決定した。1.3nm四方のシートが大きく湾曲し、最大0.6nmの厚みを持つという。炭素原子の六角形構造からなるグラフェンが平面シート構造であるのに対して、ワープド・ナノグラフェンは平面構造を取り得ない七角形構造が5つもあるため、独特なうねり構造を持った分子となる。
平面構造のグラフェンは分子同士が密着しやすいために有機溶媒への溶解性が悪いが、湾曲構造のワープド・ナノグラフェンは分子間に微小な空間が多数存在するため有機溶媒によく溶ける。これは電子デバイスへの応用上、有利な性質であるといえる。
ワープド・ナノグラフェン溶液に紫外光を照射すると緑色に発光するという性質もある。また、ワープド・ナノグラフェンが電子を繰り返し出し入れできる性質を持つことも明らかになっている。今回の研究で分かった基礎物性から、ワープド・ナノグラフェンは太陽電池、有機半導体、バイオイメージングなど様々な分野への応用が期待できる分子といえる。
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