ブラウン大学の研究チームが、グラフェンの細胞毒性について報告している。グラフェンシートの端部にギザギザがある場合、グラフェンが細胞膜を容易に貫通して細胞内に取り込まれ、細胞の正常な機能を破壊するという。2013年7月9日付けの米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に論文が掲載されている。
グラフェンの細胞毒性については、これまで議論が分かれていた。ブラウン大の病理学・臨床検査医学者 Agnes Kane 氏のグループが行った予備的研究では、グラフェンシートが確かに細胞内に入り込まれることが示された。しかし、この現象を説明するために同大の工学教授 Huajian Gao 氏が行ったコンピュータシミュレーションは、マイクロサイズのグラフェンシートが細胞内に入り込むことは極めて稀であることを示唆するものだった。Gao 氏のモデルを使ってグラフェンと細胞膜の分子レベルでの相互作用をシミュレートすると、グラフェンシートが細胞膜を切り裂くためには、要求されるエネルギー障壁が高すぎるという結果が出された。
その後、当初のシミュレーションにおいて完全な四角形のグラフェンを仮定したことに問題があることが分かってきた。現実のグラフェンがこのような完全な形状をしていることは稀であり、グラファイトから剥離されたグラフェンは「アスペリティ」と呼ばれるギザギザの突起部のある歪(いびつ)な形状をしている。アスペリティを伴うグラフェンシートでシミュレーションをかけると、完全なグラフェンと比べて極めて容易に細胞膜を貫通することができた。
病理学・臨床検査医学助教 Annette von dem Bussche 氏は、このモデルを実験的に立証することに成功した。ヒトの肺、皮膚および免疫細胞をマイクロサイズのグラフェンシートと一緒にシャーレに載せ、電子顕微鏡で観察すると、ギザギザの端部や角の部分からグラフェンが細胞内に入っていくことが確認された。実験観察により、最大10μmというかなり大きなグラフェンシートでも完全に細胞内に吸収されることが示された。
グラフェンを実用化する上では、意図せずにグラフェンを吸入したり、あるいは医療用途で意図的にグラフェンを体内に取り込むケースなどが考えられる。今回の研究成果は、今後グラフェンの生体安全性を高めていく上での手がかりになると期待される。
発表資料
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