マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、グラフェンなどの2次元系材料を用いた太陽電池の研究を進めている。1nm厚の極薄太陽電池シートで理論的には変換効率1%程度を確保できるという。重量あたりの出力を比較すると、既存の極薄太陽電池の100~1000倍という高出力を実現できることになる。2013年6月10日付けの Nano Letters に論文が掲載されている。

グラフェン(下層・青色)と二硫化モリブデン(上層・赤色がモリブデン原子、黄色が硫黄原子)を積層した2次元太陽電池のモデル。厚さは従来のシリコン太陽電池の数千分の1 (GRAPHIC: JEFFREY GROSSMAN AND MARCO BERNARDI)
研究チームは、遷移金属ジカルコゲナイド(TMD)の単層シートおよびグラフェンなどの2次元系材料を用いた太陽電池について、コンピュータ・シミュレーションによる検証を行った。
具体的には、3種類の単層TMDとして、二硫化モリブデン(MoS2)、二セレン化モリブデン(MoSe2)、二硫化タングステン(WS2)に着目。これらの膜厚1nm未満の単層TMDでは、入射光の吸収率が5~10%に達することを示した。ガリウム砒素およびシリコンと比較して光吸収率を1桁高くできることになる。
また、MoS2とグラフェンを積層したショットキーバリア型太陽電池セルおよびMoS2/WS2の二層構造による励起子型太陽電池セルについて、変換効率のシミュレーションを行った。その結果、どちらのタイプでも1%程度の変換効率が出せることが分かった。数層の2次元系材料を積層することで変換効率はさらに上がる可能性がある。
1nm厚の2次元太陽電池は、変換効率15~20%程度を実現している既存の太陽電池と比べると変換効率の値自体は低いが、これまでに作製されたことがある極薄太陽電池の1/20~1/50の厚さしかないため、重量あたりの出力密度では100~1000倍の高出力となるという。太陽電池を軽量化できるため、実現すればモジュールの輸送コストや設置コストを大幅に低減できると考えられる。
TMDの材料特性としては、空気、紫外線、湿度などに対して安定であることも挙げられる。このため、既存の太陽電池モジュールに使われている保護用ガラスなしでも野外での長期安定性を確保できる可能性がある。研究チームは現在、実デバイスの作製に取り組んでいるところであるという。実用化する上では、TMDを大規模に作製する技術の開発が必要になる。
MITの発表資料
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