理研、窒素分子の切断と水素化を常温・常圧で実現。新たなアンモニア合成法の開発に期待

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理化学研究所は、新たに合成した多金属のチタンヒドリド化合物に窒素分子(N2)を常温・常圧で取り込ませ、窒素-窒素結合を切断し、窒素-水素結合の生成(水素化)を引き起こすことに成功した。従来に比べ、少ないエネルギーでアンモニア(NH3)を合成できる手法の開発につながると期待される。2013年6月28日付け Science に論文が掲載されている。

現在、肥料や医薬品原料など幅広く産業利用されているアンモニアは、100年程前に開発されたハーバー・ボッシュ法を用いて合成されている。ハーバー・ボッシュ法は、窒素と水素(H2)を高温・高圧(500℃・300気圧)のもと固体触媒上で反応させ、窒素からアンモニアを合成する反応である。複数の金属が反応に関与しているとされるが、高温・高圧を要するため実反応の解析が難しく明らかにはなっていない。また、非常に安定な窒素の三重結合を高温・高圧下で切断してアンモニアを生成するため、多量のエネルギーを必要とする。人類の年間消費エネルギーの1%以上が、ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成に使用されているともいわれており、より低温・低圧の温和な反応条件でのアンモニア合成法の開発が望まれている。

多金属のチタンヒドリド化合物の構造 (出所:理化学研究所)

近年、構造が明確な化合物を用いた窒素固定に関する研究が盛んに行われるようになっているが、多くの場合特殊な金属還元剤などの使用が必須であり、実用化には大きな課題がある。金属-水素の結合を持つヒドリド化合物は、特殊な試薬を用いずに窒素を固定できる可能性があるが、これまで窒素-水素結合を生成した例はない。また、3つ以上の金属原子からなる多金属ヒドリド化合物は、特異な分子活性化協奏機能が期待できるが、窒素分子の活性化に関してはこれまで報告されていない。

研究グループは今回、新たな多金属ヒドリド化合物を合成し、温和な条件での窒素固定を試みた。まず、立体的にかさ高いシクロペンタジエニル基という有機分子を保護基とするチタンのアルキル化合物に水素を加えることで、新しい多金属のチタンヒドリド化合物の合成に成功した。X線構造解析の結果、この化合物のコア構造は3つのチタン原子と7つのヒドリド原子で構成されていることを確認した。

このチタンヒドリド化合物と窒素(1気圧)の反応を行ったところ、常温で窒素-窒素三重結合が切断され、窒素-水素結合が生成されることが明らかになった。3つの金属原子が相乗的に働いて、温和な条件で窒素が固定され水素化された初めての例であるという。

窒素と多金属チタンヒドリド化合物の反応プロセス (出所:理化学研究所)

 
この反応を低温で行った結果、次のような反応プロセスであることが分かった。

-30°Cで窒素分子がチタンヒドリド化合物に取り込まれると同時に4つのヒドリド原子から2つの水素分子が生成・脱離する。水素分子生成により余った4つの電子を窒素が受け取り(還元)、窒素-窒素三重結合がより結合力の弱い単結合まで還元される。さらに、-10℃で2つの3価のチタン(III)から2つの電子を窒素に受け渡し窒素-窒素結合が切断されるとともに、2つの4価のチタン(IV)が生じる。その後、室温の20℃で1つのヒドリド原子から2つのチタン(IV)へ2つの電子を受け渡し、プロトン(H)と2つのチタン(III)が生じる。このプロトンと窒素が結合し、窒素-水素結合が生成する。

この反応には、窒素の活性化と水素化のために新たな還元剤(電子源)またはプロトン源を必要としないという特徴がある。チタンヒドリド化合物中の複数の金属が反応に関与して、窒素を温和な反応条件で取り込み、ヒドリド原子が電子(e)を与える電子剤として働くことで窒素分子を切断する一方で、ヒドリド原子自ら有する電子を金属に与えることでプロトン(H)として働き、窒素を水素化する。

理論計算によってさらに詳細に反応機構を調べた結果、まず窒素分子は3つのチタン原子のうちの1つと結合し、ヒドリド原子が水素分子として1つ、2つと脱離するとともに、窒素と結合するチタンの数が2つ、3つと増えていき、窒素-窒素結合が弱められていくことが分かった。反応プロセスでは、先に窒素-窒素結合が切断され、その後に窒素-水素結合が生成されるが、これは窒素-水素結合が先に生成し、その後に窒素-窒素結合が切断するプロセスと比べて、より少ないエネルギーで進行することも分かった。このような詳細な反応機構の解析は、今後の新たな触媒開発に有用な指針になるとみられる。今回合成した多金属チタンヒドリド化合物は、非常に高い反応性を有している。このため、窒素の固定化反応だけでなく、新たな触媒反応への展開も期待できるという。


発表資料

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「理研、窒素分子の切断と水素化を常温・常圧で実現。新たなアンモニア合成法の開発に期待」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: daily 06/30/2013 | zinmu660

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