東大ら、スピンアイス中での磁気モノポールの量子運動を発見。スピントロニクスデバイス応用に期待

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東京大学物性研究所・中辻知准教授を中心とする研究グループが、スピンアイス関連物質である磁性体Pr2Zr2O7において、磁気モノポールが半導体中の電子のように量子力学的運動を行うことを見出した。磁気モノポールの持つN極、S極の情報を無散逸に伝送できることを意味している。また、これまでに報告されている磁気モノポールはスピンアイス中をランダムに動き回ることが知られているが、今回の量子力学的運動は特定の法則に従う。このため、この法則を解明することで磁気モノポールを自在に制御できるようになると考えられる。名古屋大学、ジョンズ・ホプキンス大学、オークリッジ国立研究所との共同研究による成果。2013年6月17日付けの Nature Communications に論文が掲載されている。

図1 スピンアイスにおける磁気モノポール (出所:東京大学)

スピンアイスという名称は、正四面体の頂点を共有する格子構造におけるスピンの配置パターンが、氷(固体のH2O)における水素原子の配置パターンに類似していることに由来している。スピンアイス状態の物質中におけるスピンが擬似的なモノポールとしての挙動を示すことは、2009年にロンドン・ナノテクノロジー・センター(LCN)の研究グループによって発見された。もともと対になっているN極とS極の磁荷(正反対の方向を持つスピンの組み)が離れ離れになって格子ネットワーク上で独立に動き出すため、あたかも磁気モノポールのように見える。未発見粒子である単極磁荷としてのモノポールではない。2013年2月には、LCNとオックスフォード大学の研究チームによって、スピンアイスDy2Ti2O7における擬似的な磁気モノポールが、水中での分子のブラウン運動に似たランダムな動きを見せることが報告されている(関連記事)。

今回の研究では、Prベースのパイロクロア磁性体Pr2Zr2O7に着目し、2000度を超える超高温環境を作り出すことによって、精密な物性測定に必要とされる大型の人工単結晶の合成に成功した。この単結晶を特殊な冷凍機を用いて絶対零度近傍まで冷却し、磁気的な性質を詳細に調べた。

図2 絶対零度近傍における (A) 弾性中性子散乱および (B) 非弾性中性子散乱の波数空間強度マップ (出所:東京大学)

 
ジョンズ・ホプキンス大と共同で行った絶対零度近傍での中性子散乱実験では、スピン集団の時間平均的な配列情報(弾性散乱)と集団運動の様子(非弾性散乱)を調べた。測定の結果、Pr2Zr2O7のスピンは、スピンアイスで期待される規則(アイスルール)に従って配列していることが分かった。さらに、従来型スピンアイスとは異なり、Pr2Zr2O7のスピンは絶対零度低温近傍にも関わらず凍結せず、量子的に揺らいでいることを突き止めた。励起状態ではアイスルールが破れており、磁気モノポールが存在していることも見出した。このことから、励起状態におけるモノポールは量子揺らぎを駆動力としたコヒーレントな集団運動を行っていると考えられるという。

図2は、絶対零度近傍(約マイナス273度)における (A) 弾性中性子散乱および (B) 非弾性中性子散乱の波数空間強度マップ。弾性散乱マップの(002)や(111)で見られる特徴的パターンはピンチポイントと呼ばれており、Pr2Zr2O7においてアイスルールが存在する証拠を与える。一方、非弾性散乱マップではピンチポイントが消失しており、励起状態においてアイスルールが破れ、磁気モノポールが出現していることを示している。こうした非弾性散乱成分は量子揺らぎを持たない従来型スピンアイスでは存在せず、Pr2Zr2O7が量子揺らぎを持つ新しいスピンアイスであることを直接的に示している。

研究チームは今後、量子モノポールの詳細を明らかにするために、伝達距離や伝達速度、磁場などの外部刺激に対する応答を精密に調べる必要があるとしている。量子モノポールの形成メカニズムと制御方法が解明できれば、磁気モノポールを利用したスピントロニクスが実現する可能性が出てくる。磁気モノポールによるスピン情報の輸送は、電流を使わず熱損失が生じないため、省エネルギーなスピントロニクスデバイスへの応用が期待される。


東京大学の発表資料

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