カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、化学反応の前後における分子構造の変化を直接画像化することに成功した。化学構造図そっくりに画像化できる。従来、核磁気共鳴法(NMR)などによる分析を利用した間接的な推測からしか、こうした情報を得ることはできなかった。2013年5月30日付けの Science に論文が掲載されている。
研究チームは、電子デバイス用途でのグラフェン・ナノ構造をボトムアップ形成するために同手法を開発した。グラフェンの表面に他の分子を精密に配置して狙ったとおりの構造を作り上げるには、化学反応によって実際に生成される反応物の状態を詳細に可視化する必要があったという。
図1は、今回の研究で用いた化学反応の前後での反応物の画像である。上段は走査トンネル顕微鏡(STM)によるもので明瞭さに欠けるが、中段の非接触型原子間力顕微鏡(nc-AFM)の画像では、分子の結合状態が鮮明に表れている。下段の化学構造図と見比べると、ほとんど構造図そのままの形状で画像化されていることが分かる。
nc-AFMによる原子レベル解像度の撮像技術は、2009年にIBMチューリッヒ研究所がはじめて用いたもの。探針先端に一酸化炭素を結合させることで nc-AFM の分解能を大幅に高め、分子の化学結合状態まで可視化できるようになっている。
今回の研究では、反応表面および分子を液体ヘリウム温度(約4K)に冷却して分子の動きを止めてから、STMを用いてすべての分子を表面上に並べて焦点を絞り込み、nc-AFMによる探針の精度をさらに高めた。
冷却状態での撮像後、分子の反応温度までサンプルをいったん加熱し、次にもう一度 4K まで冷却することで反応生成物の撮像を行った。これによって反応前後での化学構造の変化を直接可視化することに成功した。
研究チームは、同手法を用いて、高度に秩序化された構造を表面上に形成できるようになるため、炭素材料を用いた電子デバイスやデータストレージ、ロジックゲートなどの応用につながるとしている。また、今回の研究の直接の目的はグラフェンのナノ構造形成だが、同手法はグラフェンに限らず、ヘテロジニアスな触媒の研究などにも幅広く利用できるとみられる。
発表資料
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