マイクロ波を使った分子の光学異性体の識別技術を開発 ・・・ 米独研究チーム

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米独共同研究チームが、マイクロ波を用いて分子の光学異性体を識別する技術を開発した。キラルな関係にある分子の双極子モーメントの違いを利用して、右手系と左手系の分子を識別できる。将来的には光学異性体の分離技術にもつながると期待される。2013年5月22日付けの Nature に論文が掲載されている。

1,2-プロパンジオールの光学異性体 (David Patterson, Melanie Schnell & John M. Doyle, Nature(2013) doi:10.1038/nature12150)

右手と左手の関係のように、ある物体の鏡像が元の物体と空間的に重ね合わせられない性質をキラリティという。ある分子構造の鏡像が、元の分子に対してキラルであるとき、その鏡像分子は元の分子の光学異性体と呼ばれる。生体その他の化学反応において、キラリティは重要な役割を果たしている。例えば生体内では、ほとんどのアミノ酸は左手系分子しか存在せず、逆に糖は右手系分子しか存在しない。なぜ自然界にこうしたキラリティの偏りがあるのかは、長い間謎とされている。

化学合成の分野では、右手系と左手系の化合物(光学異性体)が同量生成されることも多い。ある化合物とその光学異性体は、生体に対する機能が全く異なる場合がある。光学異性体は生体に対して無機能であったり、最悪の場合は毒性を発揮することさえある。このため、特に医薬品業界では高純度の光学異性体の生成や濃縮などの技術に高い関心が寄せられている。

しかし、光学異性体の分離生成以前に、まずキラル分子の識別自体が技術的に難しい。以前からある識別法としては、キラル分子に線形偏光を照射する手法がある。分子のキラリティによって偏光面が左旋回するか右旋回するかが決まる性質があるため、これを検出することで右手系分子と左手系分子の識別ができる。しかし、光学異性体同士が混在している場合や、種類の異なる物質が混成している場合、この効果は弱まる。また、この手法には液体試料にしか使えないという問題もある。

一方、今回開発された手法は、光学異性体の別の性質である双極子モーメントを利用している。双極子モーメントは分子と外部電場の相互作用を記述するベクトル量であり、ある分子とその光学異性体の双極子モーメント成分の大きさは常に等しいが、正負の符号は逆になる。このため、双極子モーメント成分の符号を調べれば、光学異性体の型を識別できる。

光学異性体の識別に用いたマイクロ波スペクトロメーター (David Patterson, Melanie Schnell & John M. Doyle, Nature(2013) doi:10.1038/nature12150)

 
研究チームは、光学異性体の双極子モーメントを測定するためにマイクロ波を利用した。試料は気体の状態で冷却チャンバ内に供給され、-266℃に冷却される。低温ガスが精密に調整されたマイクロ波と相互作用することで、励起された分子の回転が起こる。分子は回転しながら自らもマイクロ波を放射するので、これを記録する。このマイクロ波放射の位相によって、光学異性体の型が識別できる。左手系分子の放射が正の最大値を取るとき、右手系分子の放射は負の最大値を取る。

有機化合物 1,2-プロパンジオールを使ってこの手法をテストした結果、光学異性体の識別を確実に行えるだけでなく、光学異性体の混合比も調べられることが示された。狙った分子の回転状態に対してマイクロ波の周波数を精密に合わせることで、異なる種類の物質が混成した試料についても調べることができるという。研究に参加した自由電子レーザー科学センター(CFEL)の Melanie Schnell 氏は、「異なる化合物の混成試料を調べ、そこでの光学異性体の比率を確定することも間もなくできるようになる」と説明する。研究チームは、CFELの広帯域スペクトロメーターに同手法を適用し、混成試料における光学異性体の比率を測定する計画を立てているという。

長期的には、今回の手法が光学異性体の分離技術の開発につながるものと期待されている。まず一方の光学異性体を1つのレーザーで励起し、次に励起された分子と励起されていない分子に対して異なる作用を及ぼす別のレーザーを使って光学異性体同士を分離する方法が考えられるという。


発表資料

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