産業技術総合研究所(産総研)太陽光発電工学研究センター 太陽電池モジュール信頼性評価連携研究体の増田淳氏と原浩二郎氏が、Potential-induced degradation(PID)現象による結晶シリコン太陽電池の出力低下を抑制する技術を開発した。酸化チタン系の複合金属化合物薄膜をガラス基板にコーティングする。サスティナブル・テクノロジー(STi)との共同研究。2013年6月4~5日につくば国際会議場で開催される産総研 太陽光発電工学研究センター成果報告会2013などで詳細が発表される。
PIDは、太陽電池モジュールに高電圧がかかり、出力が大幅に低下する現象。モジュールやシステムの構成部材の種類、高温、高湿(水)、システム電圧などの条件が影響していると考えられている。長期間での経年劣化とは異なり、数か月から数年の比較的短期間でも起こりうるとされ、特に、高電圧のメガソーラーではPIDによる性能低下が問題視されている。
今回開発された技術は、酸化チタン系複合金属化合物薄膜を太陽電池モジュールに用いられるガラス基板表面上にコーティングすることにより、PID現象の主原因とされるナトリウムイオンなどのガラス基板からの拡散を防止して、太陽電池モジュールの出力低下を抑制するもの。酸化チタンベースのコーティングには、表面の汚れ防止や光の反射防止などの用途でSTiが開発した技術を用いた。
酸化チタン系の複合金属化合物薄膜は、ガラス基板表面上(結晶シリコンセル側)に原料を含む溶液をドクターブレード法(成膜材料の溶液を滴下し、金属の刃や棒などで基板全面に引き延ばして塗布する方法)によりコーティングし、乾燥させた後、200~450℃で約15分間加熱焼成して成膜した。複合金属化合物薄膜をコーティングしたガラス基板、封止材のEVAフィルム、結晶シリコンセル、バックシートを重ね合わせて、真空ラミネートしてモジュールを作製した。
標準型モジュールと対策済みモジュールについて、それぞれPID試験前後の特性を評価した。左図は、PID試験前後の疑似太陽光照射下での電流電圧特性(PID試験条件:‐1000V、85℃、2時間)。薄膜をコーティングしていない標準型モジュールの変換効率は、PID試験後に15.9%から0.6%へと大幅に低下した。一方、酸化チタン系複合金属化合物薄膜をコーティングしたガラス基板を用いた対策済みモジュールでは、PID試験による効率の低下はわずかなものに抑えられた。PIDの主な原因とされているガラスからのナトリウムイオンなどの拡散が、酸化チタン系複合金属化合物薄膜によりブロックされたため、PID現象による出力低下が抑えられたと考えられる。
今回用いた酸化チタン系複合金属化合物は比較的低コストであり、簡易な成膜方法、低温焼成で成膜でき、使用量も少なく済むことから、低コストPID対策の有望な候補の一つと期待される。今後は、酸化チタン系複合金属化合物薄膜の材質や膜厚、成膜条件などを最適化して、PID現象の抑制効果の向上とその実証を行う。また、より詳細なPID現象抑制メカニズムの解明、大面積モジュールでの実証試験など、早期実用化を目指した研究開発を行う予定であるという。
発表資料
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