京大ら、ナノアンテナによってLEDの発光強度が最大60倍増強

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京都大学工学研究科助教の村井俊介氏らが、ナノメートルサイズの金属粒子を周期的に並べた構造(ナノアンテナ)を用いて、発光材料の発光強度を大きく増強したり、発光の方向を制御できることを実証した。照明用の白色LEDにナノアンテナを組み入れることで、従来に比べて高性能で省エネルギーな照明が開発できると期待される。成果は、オランダのAMOLF研究所、フィリップス研究所との共同研究によるもの。2013年5月10日付けの Light: Science & Applications に論文が掲載されている。

ナノアンテナとして働く金属ナノ粒子の周期構造の電子顕微鏡画像 (出所:京都大学)

近年、金属特有の光学現象である表面プラズモン共鳴を用いて発光を増強する方法が提案され、世界中で研究されている。例えばナノメートルサイズの金属粒子に光を照射すると粒子表面に表面プラズモン共鳴が励起され、光のエネルギーが粒子表面に集中する効果が得られる。このように光を制御する効果をもつ金属のナノ構造はナノアンテナと呼ばれる。

ナノアンテナを使うと、従来は検知できなかった微弱な信号を検出できる高性能センサや、従来よりも高効率な太陽電池の作製が期待される。白色LEDの蛍光体をナノアンテナと組み合わせることでその発光強度を増強する試みも行われており、特に量子収率の低い発光材料には有効であることが報告されている。しかし、実用に近い量子収率の高い材料は発光強度の増強の余地が小さく、また金属による発光材料の失活の影響があり、増強効果は限定的なものにとどまっていた。また、ナノアンテナが作製できる面積が100μm四方程度と小さいことや、材料として金や銀などの貴金属を使っていることなど、照明に応用するには問題があった。

試料と測定の模式図。青色レーザーで励起し、発光を試料面からの角度θの関数として検出した (出所:京都大学)

 
研究グループは今回、こうしたナノアンテナの問題点を克服し、量子収率の高い発光材料の発光強度を60倍程度まで増強することに成功した。ナノアンテナとして金や銀ではなく、安価な金属アルミニウム粒子の周期構造を採用し、ナノインプリントリソグラフィによって大面積(10cm四方)で精度の高い加工を行った。
 

(a)ナノアンテナ試料の写真。画面後方から青色レーザーが入射している。中心の一番明るいスポットが照射点で、ナノアンテナによって回折された光がその周りに明るい点をつくる (b)試料面に対し垂直方向(θ=0度)で検出したナノアンテナ試料の発光スペクトルを参照試料の発光スペクトルで規格化した図。発光強度が最大で60倍近く増強されていることがわかる (出所:京都大学)

 
実験では、ガラス基板上に作製したナノアンテナの上に、発光層として色素(量子収率86%)を含むポリマー膜を塗布して試料を作製した。この発光層の厚さを650nmと従来の研究に比べ非常に厚くすることで、金属による失活効果の低減をねらった。試料を青色レーザーで励起したところ、ナノアンテナがない場合に比べて格段に明るく光り、特に試料面に垂直な方向への発光強度は単一波長での比較で最大60倍にまで増強された。ナノアンテナ試料では発光の指向性が高まることも明らかになった。発光強度の増強と発光方向の制御は、以下の3つの機構の相乗効果であると考えられる。

1. 青色レーザーの吸収の増加
表面プラズモン共鳴の電場集中効果により、ナノアンテナの周囲では照射した青色レーザーの強度が高くなる。これによりナノアンテナがない場合に比べ色素に光が集中し強く励起される。

2. ポリマー膜からの発光の取り出し効率の上昇
ポリマー膜は屈折率が空気よりも高いために、全反射により色素からの発光の一部が閉じ込められて外に取り出せない。ナノアンテナは光を特定の方向に回折し、外部に放出する役目を果たす。

3. 色素の発光速度の上昇
色素の周囲に電磁波のエネルギーを集中することで、色素の発光速度が上昇する。ナノアンテナにより発光層内での電磁波の分布を制御し、色素をより明るく光らせることができる。

発光強度の方向依存性。ナノアンテナ試料では試料面に垂直な方向に強い発光が見られる (出所:京都大学)

 
これら3つのうち、特に2と3の機構は金属粒子がランダムに分散するのではなく、規則的に並んだナノアンテナを用いることで大きな効果が期待できる。今回、この3つの機構に加え、発光層が厚いために電磁波のエネルギーが集中する場所が金属から離れたことで金属による色素の失活が低減され、大幅な増強効果が実現したと考えられる。

実験では、高い量子収率を持つ色素を発光材料として用いたが、同手法は他の蛍光体にも応用可能である。商用化されている黄色蛍光体であるセリウムを添加したイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)からの発光もナノアンテナにより制御可能であることが確認されている。なお、今回使用されたナノアンテナと発光層の厚さが650nm程度であり、増強後の発光強度は現状の照明(発光層の厚みが数十μm)の発光強度には及んでいない。今後、ナノアンテナと発光層を3~5枚程度積層することにより厚みを増やし、十分に輝度をもった構造の実現をめざすという。


発表資料

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