イェール大学の研究チームが、蛍光色素を利用した高分子太陽電池の高効率化技術について報告している。高分子太陽電池の光電変換層に蛍光色素スクアラインを添加することにより、変換効率が38%増加した。蛍光色素添加後の変換効率は4.5%となった。2013年5月7日付けの Nature Photonics に論文が掲載されている。
高分子太陽電池は、低コスト化・軽量化・大面積化が可能であり、機械的な柔軟性も備えるなど様々な利点を持っているが、その一方で変換効率が低いという問題を抱えている。高分子太陽電池の内部に吸収された光のうち50%近くは、電気エネルギーとして利用されていない。変換効率が上がらない主な理由は、高分子のネットワークがナノスケールで十分きれいに整列していないため、太陽電池セルの外部にエネルギーを取り出せないからであるという。
研究チームは今回、蛍光色素スクアラインを高分子太陽電池に導入し、変換効率が38%増加することを実証した。実験では、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)と呼ばれる生化学メカニズムを利用した高分子太陽電池が使われた。

図2 スクアライン色素を含む場合、含まない場合のP3HT:PCBMの観察像 (Jing-Shun Huang et al., Nature Photonics (2013) doi:10.1038/nphoton.2013.82)
FRET型へテロ接合高分子太陽電池においては、余剰エネルギーが分子間で受け渡しされ、長距離を移動することができる。スクアライン色素は、近赤外領域の光をよく吸収するため、太陽電池のスペクトル吸収を広げる働きがある。また、ナノスケールでの秩序化を促すことで、電荷移動が増強する。フェムト秒分光分析の結果からは、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)からスクアラインへのピコ秒スケールでの励起エネルギーの移動が、最大96%という高効率で起こることが明らかになっている。
今回のアプローチによって、異なる種類の光吸収材料を組み合わせて相乗効果を発揮することが可能となる。また、後処理なしでも高分子ネットワークを高度に秩序化できるようになる。
図2は、1wt%のスクアライン色素を含む場合および含まない場合のP3HT:PCBMの観察像を比較したもの。(a)はスクアライン色素あり、(b)はスクアライン色素なしの場合のTEM画像。(c)はスクアライン色素あり、(d)はスクアライン色素なしの場合のタッピングモードAFM画像。画像のサイズは1μm×1μmとなっている。(e)のグラフは、スクアライン色素あり(赤線)およびスクアライン色素なし(黒線)の場合のX線回折スペクトルを示している。
発表資料
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