米SLAC国立加速器研究所とスタンフォード大学の研究チームが、新構造のリチウム硫黄フロー電池を開発した。従来のレドックスフロー電池と比べて構造が単純で、材料コストも安くできるため、太陽光や風力発電の出力変動を吸収するための大規模蓄電システムとして有望であるという。2013年3月8日付け Energy & Environmental Science オンライン版に論文が掲載されている。
既存のレドックスフロー電池は、正極側と負極側でそれぞれ異なる溶液をポンプで循環させ、液中でのイオンの酸化還元反応によって充放電を行う。実用化されているバナジウム電池の場合、充電時には正極側溶液中で4価のバナジウムが5価に酸化されて電子を放出、負極側溶液では3価バナジウムが電子を得て2価に還元される。放電時には、これと逆の反応が進行する。正極側と負極側の溶液はイオン交換膜で隔てられており、充放電の進行中に水素イオン(プロトン)が膜を通過して両溶液の間を移動する。これにより、溶液の電気的なバランスが保たれる。
バナジウムなどのレアメタルや、高価で定期的メンテナンスが必要なイオン交換膜を使用していることは、レドックスフロー電池のコスト面での課題となっている。そこで研究チームは今回、循環させる溶液が1種類だけでよく、イオン交換膜も必要としない新構造のフロー電池を開発した。充放電反応を担う材料も、比較的安価なリチウムと硫黄を用いた。
新型フロー電池は、エーテル溶媒に多硫化リチウム(Li2S8)を溶かした正極電解液と、固体の金属リチウム負極で構成される。放電時には多硫化リチウム分子がリチウムイオンを吸収。充電時には溶液中にリチウムイオンを放出する。
従来のリチウム硫黄電池では、放電時のLi2S2およびLi2S生成に起因する性能低下がみられたが、今回の電池では硫黄とLi2S4の間だけでサイクル反応するように正極電解液を設計することでこの問題が回避されている。リチウム金属の表面は、LiNO3でパシベーションすることで、シャトル効果による劣化を抑えることができる。また、1種類の有機溶媒だけを使用しているため、水系フロー電池にみられる腐食の問題も回避されるという。
論文によると、理論上、溶解限度での同電池のエネルギー密度は重量密度170Wh/kg、体積密度190Wh/Lと高い。研究チームは、これを実証するためにガラス容器を使った小型のリチウム硫黄フロー電池を試作し、重量密度97Wh/kg、体積密度108Wh/Lを実現している。サイクル寿命については、2000サイクル後も200mAh/gの容量が維持されることが確認されている。今後、電池のスケールアップをめざして研究を続けるという。
スタンフォード大学の発表資料
おすすめ記事
- 福島原発、強制退避措置による死者数>事故による死者数・・・スタンフォード大が試算発表
- チャルマース工科大ら、太陽熱を長期保存できる分子デバイスを開発
- 「供給過剰の風力エネルギーを二次電池で貯めるのは不合理」スタンフォード大が報告
- SLACとスタンフォード大、タマゴ型のリチウムイオン電池正極で従来比5倍超の正極容量を実現
