東北大ら、磁気の波による熱エネルギー移動に成功。デバイス発熱の解消に期待

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東北大学らの研究グループが、磁気の波(スピン波)を用いて熱エネルギーを望みの方向に移動させる基本原理の実証に成功した。デバイスに情報入力するときに使われる電流やマイクロ波は、その多くが熱に変わり、発熱によってデバイス動作を不安定にする問題があるが、今回の手法によって熱エネルギーを制御して熱源から離れた場所へ運び、デバイスからの排熱効率を上げることが可能になる。東北大学 金属材料研究所の安東秀助教、同大 原子分子材料科学高等研究機構の齊藤英治教授、日本原子力研究開発機構(JAEA)先端基礎研究センターの前川禎通センター長、東邦大学理学部の大江純一郎講師らの研究成果。2013年4月21日付の Nature Materials に論文が掲載される。

図1 スピン波-熱エネルギー移送の原理 (出所:JAEA)

電子が持つ電荷の自由度に加えてスピン(磁気)の自由度を積極的に利用するスピントロニクスは、電力の消費を伴わないスピン流によって駆動されるため、大幅に消費電力を低減した不揮発性磁気メモリや量子情報伝送が実現できると期待されている。スピン流自身は原理的に発熱を伴わないため、デバイスの発熱問題も解決できるとされるが、これまでのところスピン流の生成効率は小さく、スピン流を生成するには発熱を伴う電流やマイクロ波を使用するため、依然として発熱の問題は解決されていない。

今回の研究では、スピン流の一種である、磁気の波(スピン波)を起源とするスピン波スピン流を用いて熱エネルギーを移動する新しい基本原理を見出し、実験・理論の両面で実証した。その基本原理は、通常のマイクロ波加熱(図1a)とは逆に、磁性体中に吸収されたマイクロ波エネルギーがスピン波によって試料中で運ばれ試料端で熱エネルギーに変換されるというもの(図1b)。外部磁場の方向を調節することで、通常のマイクロ波加熱とは逆方向に温度勾配が生成される。熱流から磁気の波を生成する現象として「スピンゼーベック効果」が知られているが、今回の実証はその逆過程に相当する「磁気の波で熱流を操作する現象」を実現する原理の1つとなり得るという。

図2 表面スピン波を用いたスピン波-熱エネルギー移送 (出所:JAEA)

 

図3 表面スピン波の励起と非相反性 (出所:JAEA)

 
図2に示した実験により、スピン波による熱エネルギー移送の現象を実証した。実験系(図2a)では、直径4mmの絶縁体である磁性ガーネット(Y3Fe5O12:YIG)多結晶円盤にマイクロ波と磁場を印加して、スピン波を励起する。このとき、磁場とマイクロ波周波数を調整することにより、YIG試料中に表面だけを伝搬する表面スピン波を励起することができる。この結果、下面で励起された表面スピン波は試料右方向へ伝搬した後、試料端で熱エネルギーを放出することを発見した。

試料温度を赤外線カメラで観測することにより確かめた(図2b)。磁場の印加する方向を反転することにより、表面スピン波の伝搬方向も反転し発熱の位置を反転させることができることも確認した。これらの成果は、表面スピン波を用いて所望の方向に熱エネルギーを移送できるということを示している。

YIG中に励起された表面スピン波は、非相反なスピン波であるため、試料の上面と下面で、それぞれ一方向かつ互いに逆向きに伝搬するという性質をもつ。この性質により、試料表面を一方向に伝搬した表面スピン波は、試料端で逆向きに反射することができない(図3)。十分な厚みの試料中では、上面と下面の表面スピン波間の飛び移りも抑制することができ、結果として、試料端でスピン波の持つエネルギーが熱エネルギーとして放出される。今回の熱エネルギー移送には、この原理が用いられている。スピン波と熱との相互作用を利用する物理原理であり、近年、スピンと熱との相互作用に基づく新現象を開拓して注目を集めている「スピンカロリトロニクス」分野にも深く関連する成果であるといえる。


発表資料

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