JEOL RESONANCE は、世界で初めて液体ヘリウムの補充を必要としない超伝導磁石を用いたNMRシステムの実用化に成功した。米国パシフィックグローブ(カリフォルニア州)で2013年4月15日から開催される NMR 学会「第54回 Experimental Nuclear Magnetic Resonance Conference (ENC) 」において成果発表を行う。製品は5月から受注開始予定。
ヘリウムは、天然ガスの副産物として米国、アルジェリア、カナダ、ポーランド、ロシアなどで産出されているが、最も多いのは米国であり、全世界の半数以上を生産している。生産設備の年一度の定期保守の際に生産が停止し、生産再開まで時間を要する年には、ヘリウムの供給不足が生じる。2012年度にも供給不足が問題となっていた。
NMRで用いる超伝導磁石はその磁場を維持するために内部コイルを超伝導状態に保つ必要があり、冷媒として液体ヘリウムを用いる。現行の同社製 400MHz NMR磁石では、液体ヘリウムを年間約120リットル消費する。近年、液体ヘリウムの入手が困難であるため、補充期間が長く、補充容量が少ない超伝導磁石が望まれてきた。
今回、蒸発したヘリウムを凝縮し、冷媒である液体ヘリウムの補充を必要としない(ゼロボイルオフ型=蒸発量ゼロ型)超伝導磁石を用いたNMRシステムを開発。実用化に世界で初めて成功した。
NMR 測定は非常に微小な電波を測定する必要があり、冷凍機の振動により、NMR信号にノイズが発生することが懸念され、これをいかに小さくするかが開発のポイントとなった。また、冷凍機は外部に設けられたヘリウムガス圧縮機で動作しているが、停電などにより圧縮機の動作が停止した場合、復電するまでに液体ヘリウムが蒸発する。特に週末や年末年始の長期休暇の間に停電した時には、対処されるまでの時間が長くなると予想されるため、冷凍機停止期間でも、液体ヘリウムの蒸発を抑え、超伝導磁石の磁場を保持するように工夫した。冷凍機は2年に一度のメンテナンスを必要とするが、この作業も超伝導磁石の磁場を変更しないで実現できるよう、構造上の工夫を加えた。
NMR装置は、タンパク質、高分子材料、薬品、新素材などの開発に不可欠な基本分析ツール。液体ヘリウムの入手が困難な状況や場所でも、同機を用いることで、通常の高分解能NMRデータを取得することができ、NMRの用途拡大につながると期待される。同社では今後、磁場強度の高い500MHz(11.7T)機や600MHz(14.1T)機へも開発成果を活用し、ラインアップ充実を進めるとしている。
発表資料
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