名古屋工業大学大学院の神取秀樹教授、井上圭一助教らが、東京大学大気海洋研究所 木暮一啓教授、吉澤晋研究員との共同研究により、光のエネルギーを使ってナトリウムイオン(Na+)を細胞から汲み出すイオンポンプ型タンパク質であるナトリウムポンプ型ロドプシン(NaR)を発見した。このタンパク質の働きを解明し制御できれば、脳神経研究などの応用が可能になり、様々な精神・神経疾患の治療法開発への寄与が期待される。2013年4月9日付け Nature Communications に論文が掲載されている。

細菌など微生物が持つ光でイオンを輸送するタンパク質。これまで知られていた水素イオン(左)や塩化物イオン(中央)を輸送するロドプシンと今回新たに発見された光でナトリウムイオンを輸送するロドプシン(右) (出所:名古屋工業大学)
新規のイオンポンプ型タンパク質が細菌の細胞内で見つかったのは、1971年に太陽光エネルギーを利用する水素イオンポンプ、1977年に塩化物イオンポンプが発見されて以来、36年ぶり。Na+の輸送は神経興奮など生物にとってきわめて重要な機能を持つが、これまでNa+のイオンポンプは見つかっておらず、細菌が太陽光エネルギーをNa+の輸送のために使うことはないと考えられてきた。
研究チームは今回、相模湾の土壌に生息する海洋細菌を培養し、この菌のポンプ活性を測定することに成功。タンパク質の遺伝子を大腸菌に導入して詳細に調べた結果、光で駆動されるナトリウムポンプであることを突き止めた。
このポンプは、環境に応じて輸送するイオンをNa+からH+へ変える性質を持つ「ハイブリッド型ポンプ」であることも分かった。レーザー光や赤外線を用いた高精度な物理化学的測定と遺伝子操作技術を組み合わせることで、Na+の結合の観察や反応過程を捉えることにも成功した。海洋細菌は、太陽光エネルギーをNa+ポンプを使って化学エネルギーに変換するとともに、Na+を汲み出すことで細胞内のNa+濃度を低く保って恒常性を維持していると考えられる。
今回発見されたナトリウムポンプ型ロドプシンの他に、光でナトリウムなどの様々なイオンを運ぶタンパク質として「チャネルロドプシン」がある。ナトリウムポンプ型ロドプシンは細胞内外の濃度差に関係なく、常に細胞の内から外へイオンを輸送するのに対し、チャネルロドプシンは常に濃度の高い方から低い方へ(細胞の外から中へ)イオンを流すという性質がある。両者が制御できれば、細胞の中のナトリウムイオンの濃度をコントロールでき、神経細胞に関わる新薬の創製に大きく寄与すると考えられる。
発表資料
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