理研とJASRI、SPring-8の明るさ3倍に。リング型放射光光源のエミッタンス低減する新手法開発

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理化学研究所と高輝度光科学研究センター(JASRI)が、特殊な高周波電場を使用して電子ビームのエミッタンス(電子ビームの広がり)を低減することによって、X線の輝度を大幅に向上する手法を考案した。この手法を大型放射光施設 SPring-8 の蓄積リングに適用すると、輝度が約3倍向上することが分かった。材料科学分野などに新たな知見をもたらす次世代放射光光源の実現につながる技術として期待される。JASRI加速器部門の下崎義人研究員と理研放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門の田中均部門長らの研究チームによる成果。近々 Physical Review Letters に論文が発表される。

図1 カップリング空洞を用いて発生させた水平変位に比例する高周波加速電界 (出所:理研)

近年、X線自由電子レーザー(XFEL)によるフェムト秒の短パルス性と10GW超の高強度特性を使って、原子が動く非常に短い時間スケールと原子レベルの空間分解能で現象を観察することが可能になっている。しかし、X線レーザーはそのエネルギー密度の高さによって観測した試料を瞬時に破壊してしまうため、XFELでピコ秒以上の長い時間スケールでの観察を行うことは非常に困難であるとされる。

そこで、試料を破壊せずに、生物試料などをそのまま結晶化せずに観察可能な光源として「次世代リング型放射光光源」が注目されている。次世代リング型放射光光源は、XFELに比べると強度が弱く、XFELでは観測が難しいピコ秒を超える長い時間の現象を観察できる。また、放射光の位相が空間的にきれいに揃うため、XFELと同様に観測対象を結晶化する必要がなく、そのままの状態の試料を観察できる。

リング型放射光光源から出てくる光の輝度は、リングに蓄積する電流と電子ビームの特性で決まる。特に、光源の空間干渉性を制限し、実験で使用する光の輝度を大幅に低減させているパラメータとして、電子の水平振動に起因する「水平空間広がり」と「角度発散」が挙げられる。これらは水平エミッタンスという力学パラメータで表される。水平エミッタンスを低減することで輝度を向上できる。

図2 カップリング空洞の磁場と電場による効果の相殺 (出所:理研)

 

図3 一対のカップリング空洞による磁場効果の封じ込め (出所:理研)

 
今回研究チームでは、水平エミッタンスを電子ビーム進行方向の振動のエミッタンスに換えることで輝度への影響を抑える「エミッタンス交換」の手法を検討した。同手法は以前から知られているが、従来方式では、磁場を用いてエネルギーの高い電子からのX線放射を促進するため、電子ビームの軌道がリング全周に渡って歪み、周長に沿って存在する光源点がずれるなどの問題が生じる。このため、リング型放射光光源に対する同手法の導入は見送られてきた。

今回、電子ビームの水平変位に比例して加速電界が変わる高周波電場を用いてエミッタンス交換を行う手法を試みた(図1)。ただし、高周波電場は同時に高周波磁場も伴うので、そのままでは2つの効果が打ち消し合いエミッタンス交換を行うことができない(図2)。そこで、高周波電場を発生する空洞を一対にして、その間の電子の水平振動の位相を半周期になるように調整し、磁場の効果を2つの空洞間に閉じ込めた(図3)。これによって電場の効果だけを足し合わせることが可能になった。

図4 今回提案した方式による水平エミッタンスの低減効果。赤鎖線はエミッタンス交換による水平エミッタンス低減率の限界を示す (出所:理研)

 
この手法はどのようなリング型光源にも適用可能であるという。今回提案したシステムを SPring-8 の蓄積リングに導入し、どの程度水平エミッタンスを低減(輝度向上)できるかを、数式モデルとシミュレーションにより評価した結果、理論限界の3分の1近くまで低減できることが確認できた。さらに、例えばこのシステムを3ミリ秒ごとに(1秒間に333回)運転すると、理論限界を超えたエミッタンスの低減が可能なことも分かった。

目標とされている次世代リング型放射光光源の性能は、水平エミッタンスをこれまでの SPring-8 第3世代放射光光源の実績値(数nmrad)から、さらに1/30~1/100低減する必要があり、既存の技術の延長では実現困難とみられている。今回の手法は、エミッタンス低減策のパラダイムシフトが期待できる大きな発見の1つであるといえる。


理研の発表資料

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