ペンシルバニア大、可視光領域でシリコンを高効率に発光。エレクトロニクスとフォトニクスの統合に期待

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ペンシルバニア大学の研究チームが、バルクサイズのシリコンデバイスを可視光の波長域で高効率に発光させる技術を開発した。通常シリコンがLEDのように発光することはないが、今回の研究ではナノ共振器による表面プラズモン効果を利用することで発光を可能にした。光源にシリコンを用いることができれば、エレクトロニクスとフォトニクスの統合が容易になるため、高速・低消費電力の光コンピュータ技術が進展する可能性がある。2013年3月24日付けの Nature Photonics に論文が掲載されている。

図1 シリコンナノワイヤ・Ω型ナノ共振器のデバイス構造 (Credit: The University of Pennsylvania)

LEDに使われる窒化ガリウムやガリウム砒素などの化合物半導体のバンド構造は、伝導帯の底と価電子帯の頂上での電子・正孔の運動量(波数)が揃った直接遷移型である。励起した電子は価電子帯の頂上から伝導帯の底に直接飛び移ることができ、その後エネルギー準位が下がって価電子帯の頂上の正孔と再結合するときも、運動量のやり取りなしにバンドギャップ分のエネルギーを光として放出する。

これに対してシリコンのバンド構造は、伝導帯の底と価電子帯の頂上での電子・正孔の運動量がずれている間接遷移型である。間接遷移型半導体では、励起した後の電子が正孔と再結合するとき、運動量のずれがあるためエネルギーは光でなくフォノン(熱)として放出される。従って通常はシリコンにエネルギーを与えてもLEDのように発光することはないとされる。

実際には、バルクのシリコンであっても、大きなバイアス電圧を印加してキャリア注入を行うことによってわずかに発光することが観察されている。ただし、ホットキャリアの緩和時間が0.1~1ピコ秒しかなく、10ナノ秒程度の発光寿命と比べて非常に短いため、発光効率は0.0001未満という極めて低いものにとどまる。

図2 レーザー励起されたシリコンナノワイヤ・Ω型ナノ共振器から放出された白色光 (Credit: The University of Pennsylvania)

 
また、10nmより小さいスケールに量子閉じ込めされたシリコンでは、キャリア再結合による発光が起こることが実証されている。しかし、20~100nm程度の大きさがある現在の電子デバイスにこのような量子ドット半導体を集積化することは難しい。このため、シリコンをベースとする既存のエレクトロニクスにフォトニクスを統合するためには、量子閉じ込めを使わない新概念によるバルクシリコンの高効率発光技術の開発が望まれる。

研究チームは今回、表面プラズモン効果のあるナノ共振器を利用することによって、量子閉じ込めの起こらない室温条件下のバルクシリコンで内部量子収率 1%超の可視光発光を実証した。図1にデバイスの構造を示す。直径30~80nmの単層シリコンナノワイヤの周りに5nm厚のSiO2中間層を成膜し、さらにその上に100nm厚の銀の層をコーティングすることでΩ型の共振器を形成した。このデバイスをArレーザーの照射によって励起させると、図2のように明るい可視光での発光が観測された。

図3 フォノンのアシストによるバルクシリコン発光の仕組みを表したバンド図 (Chang-Hee Cho et al., Nature Photonics (2013) doi:10.1038/nphoton.2013.25)

 

図4 室温におけるシリコンナノワイヤ・Ω型ナノ共振器の発光スペクトル (Chang-Hee Cho et al., Nature Photonics (2013) doi:10.1038/nphoton.2013.25)

 
論文によると、励起したキャリアが熱の放出によって基底エネルギー状態(バンド図のX点付近)に戻る前に、ナノ共振器内部の高密度の電磁場に誘導されて、フォノンにアシストされたホットキャリアの発光再結合が起こるという。シリコンナノワイヤの周りのSiO2中間層は、金属表面でのキャリアの再結合を防ぎ、同時にナノ共振器のプラズモン場を維持する役目を果たす。Ω型の銀の層には表面プラズモンポラリトンの増強を促す効果があると考えられる。


発表資料

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