オランダ・原子分子国立研究所(AMOLF)とスペイン・フォトニック科学研究所(ICFO)が、グラフェンにおける光励起電子の増殖現象について報告している。ほとんどの光電変換材料では吸収した光子1個につき1個の電子しか励起しないが、グラフェンの場合、1個の光子に対して複数の電子が励起され、キャリアのカスケード的な増殖が起こる。このため非常に高い変換効率で光電変換できる可能性があるという。2013年2月24日付けの Nature Physics に論文が掲載されている。
グラフェンにおける光電変換の研究には、光励起とそれに続く励起電子の増殖が1フェムト秒(10-15 s)という極めて短い時間スケールで起こるという難しさがある。このため、研究チームは今回、時間分解能が非常に高いテラヘルツパルスによるポンププローブ法を利用した測定・分析を行った。
光励起キャリアの超高速でのエネルギー緩和に寄与する要素としては、光学フォノンの放出、キャリア間散乱など複数の経路がある。論文によると、ポンププローブ法による励起電子の分布測定結果は、広い波長領域において高効率のキャリア間散乱が光学フォノンの放出を上回っていることを示唆しているという。キャリア間散乱によって伝導帯由来の二次励起電子の生成が促され、キャリアの増殖が起こると考えられる。
紫色など高エネルギーの波長では、吸収される光子一定数あたりの励起電子の生成数が、赤外領域など低エネルギーの波長に比べて多かった。光子エネルギーに伴う励起電子の線形的な増加から、グラフェンが非常に高効率での光電変換を行っていることが分かる。Song と Levitov による理論研究では、3eVの光子エネルギー(紫色の光)での変換効率は最大80%、より低エネルギーの光ではさらに高い変換効率になると推定されている。
発表資料
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