シンガポール・南洋理工大学(NTU) Darren Sun 准教授らの研究チームが、水質浄化、水素生成、フレキシブル太陽電池、リチウムイオン電池負極材、殺菌効果のあるバンドエイドなど多目的に利用できる二酸化チタンナノ材料を開発している。二酸化チタンは光触媒性能や親水性といった特性を持っており、安価で容易に手に入る材料であるため、低コストな再生可能エネルギーとクリーンな水の安定供給に広く応用できる可能性がある。
同技術では、特許取得済みの方法によって二酸化チタン触媒をナノファイバー化する。ナノファイバーからは、フレキシブルなろ過膜が容易に形成できる。用途に応じて、この膜材料に炭素、銅、亜鉛、スズなどの材料を組み合わせるという。
二酸化チタン多目的ナノファイバーは、次のような用途に使用することができる。
Sun 氏は当初、抗菌作用のある浄水用ろ過膜の作製を目的として、二酸化チタンと酸化鉄を組み合わせて利用した。ろ過膜中で繁殖した細菌によって膜の多孔質が目詰まりし、水が流れなくなることを防ぐねらいがあった。研究チームは、この膜の開発中に、太陽光の下での二酸化チタンの光触媒作用によって、浄水と同時に水分解による水素と酸素の生成も可能であることを見出した。2013年3月19日付け Water Research オンライン版に掲載された論文によると、酸化銅とともに処理された0.5グラムの二酸化チタンナノファイバーを1リットルの水に浸すことで、1時間に1.53ミリリットルの水素を生成することが可能であるという。これは、同条件で白金触媒を用いた場合に比べて、3倍超の水素生成量となる。汚水の種類によって、水素生成量は1時間あたり200ミリリットルに達する。より多量のナノ材料と大量の汚水を使えば、さらに多くの水素を生成することもできる。
二酸化チタンには、ろ過膜を親水性にして、水の流れを良くする効果もある。一方、塩を含む混入物は通さないため、高流量の海水淡水化用正浸透膜として利用できる。
この膜の抗菌性と低コスト性を利用して、通気性の良い抗菌包帯を開発する研究も行われている。この包帯は、傷口への感染を防ぐだけでなく、絆創膏を通して酸素が浸透できるようにすることで傷の治癒を促す働きがある。膜の材料特性は、現在市販されているプラスチック包帯に使われている高分子にも似ているという。
Sun 氏の研究プロジェクトでは、二酸化チタンを他の材料とともに処理したり、あるいは結晶などの形態にすることで太陽電池材料としても利用できることが示されている。黒色の二酸化チタン多結晶シートによるフレキシブル太陽電池の作製にも成功したという。
Sun 氏 が率いる別の研究チームでは、二酸化チタンナノ材料を用いたリチウムイオン電池用負極材の開発を行っている。試作されたコイン型リチウムイオン電池では、二酸化チタンの球状ナノ粒子を炭素で修飾して負極材として利用した場合、電池容量を2倍に増加できることが示されている。2012年の Journal of Materials Chemistry に論文が掲載された。研究チームは現在、同材料を製品化するためのベンチャー企業の立ち上げも進めている。商用化を加速するための企業パートナーも探しているところであるという。
発表資料
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