グラフェンを用いて超重原子核の原子崩壊を擬似的に観測 … 米研究チーム

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マサチューセッツ工科大学(MIT)とカリフォルニア大学バークレー校らの研究チームが、グラフェンを利用した実験によって、超重原子核の原子崩壊(atomic collapse)を擬似的に観測することに成功した。原子崩壊は、量子力学的現象の1つであり、1930年代から理論的に予測されていたが、超重原子核が非常に不安定な存在であるため、これまで実験的に観測されたことがなかった。今回の実験では、グラフェン特有の電子状態を利用することで、原子崩壊とよく似た現象を作り出した。2013年3月7日付けの Science オンライン版に論文が掲載されている。

原子崩壊する電子雲の中央にカルシウム原子の二量体5個で構成された人工原子核が見えている (Image credit: Michael Crommie)

量子力学的計算によると、原子番号の非常に大きな原子では、原子核内の陽子(正電荷)と軌道上の電子(負電荷)の電気的なバランスが崩れ、電子がらせんを描きながら原子核に向かって崩落していく。同時に、電子の反物質である陽電子が生成し、らせんを描きながら原子の外部に飛び出すとされる。これが原子崩壊と呼ばれる現象である。当初、原子番号137以上の原子核で起こる現象と考えられていたが、後に理論修正され、現在では原子番号170程度が原子崩壊の閾値とされている。

現在確認されている元素の原子番号は118までであるため、原子崩壊を実験的に実証することは非常に難しい。粒子加速器の中でウラン原子(原子番号92)などの重い原子核同士を衝突させて原子崩壊の観測を試みる実験が数十年にわたって行われてきたが、原子崩壊の明確な証拠は未だに見つかっていない。

原子崩壊の概略図。上は原子番号Zが閾値Zcよりも小さい通常の原子核と電子軌道。下は原子番号Zが閾値Zを超えた超重原子核における電子・陽電子対の軌道 (Image credit: Michael Crommie)

 
一方、最近になって、グラフェン上の電子が質量ゼロのフェルミ粒子として振舞う現象を利用することで、原子崩壊によく似た系を擬似的に作れる可能性が指摘されていた。正の電荷を持つ不純物をグラフェン上に置くと、電子がらせんを描いて不純物の正電荷に吸い寄せられ、不純物近傍に局在化する。同時に、正孔が生成され、外に向かって放出される。この不純物と電子の関係は、原子崩壊における原子核と電子の関係と同様の量子力学的計算によって扱うことができる。フェルミ粒子としてのグラフェン上の電子は光速の1/300程度の亜光速(フェルミ速度)で動くので、原子崩壊が起こる原子核の電荷も実際より1/300程度小さくて済む。このため、実験的な観測がしやすくなるという利点がある。

研究チームは2012年の夏、グラフェン表面に不純物としてカルシウム原子を配置し、実際に擬似的な原子崩壊を観測する実験を行った。走査トンネル顕微鏡(STM)の探針先端を用いて、カルシウムの二量体3個を寄せ集めて配置したところ、周囲の電子が特殊な共鳴スペクトルを示し、これが原子崩壊時に予測されている値と正確に一致した。二量体の組を4個、5個と増やしても、この共鳴は持続した。二量体の個数の増加は、擬似的な原子核において原子番号を増加させることを意味している。

今回の研究のもともとの目的は原子崩壊理論の実証であるが、グラフェンのデバイス応用という観点からも価値のある成果であるといえる。グラフェンをデバイスとして利用するためには、グラフェン上の電子同士の相互作用、電子と不純物の相互作用を理解することで、欠陥やドーパントの特性を知ることが重要だからである。


発表資料

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