「ミニマルファブ完成まであと2~3年」 半導体製造装置の超小型化技術に注目

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これまで半導体デバイスの製造プロセスは、シリコンウェハーを大口径化し、1枚のウェハーから取れるチップの個数を増やして低コスト化を図るという方向で進んできた。ウェハー口径は現行の300mmから、数年後には450mmへの移行が計画されているが、450mm対応の製造装置開発には莫大なコストがかかるため、半導体業界の足並みが揃っているわけではない。

産総研ナノエレクトロニクス研究部門 原史朗氏

一方で、ウェハー口径と装置の大型化とは真逆の発想から、低コストで収益性の高いデバイス製造プロセスを実現しようとする動きに注目が集まっている。産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門の原史朗氏を中心とする「ミニマルファブ構想」である。ミニマルファブでは、ウェハーの口径を1/2インチとし、1ウェハー1チップでデバイス製造を行う。すべての製造装置は、幅30cmに規格化された筐体に収まるサイズまで小型化され、ファブの規模も10m四方程度まで縮小する。1分間1ウェハーの処理速度が実現できれば月産4万個以上のチップ生産が可能で、設備投資を従来とは桁違いに少なくできる。

今から5年ほど前、原氏がミニマルファブ構想を提唱したときには、このような製造装置の小型化が本当に実現できるのか、懐疑的な見方のほうが主流だった。しかし、この間にミニマルな半導体製造装置の開発が実際に進むにつれて、半導体業界の受け止め方も大きく変化しつつある。2012年12月、幕張メッセで開催された「SEMICON Japan 2012」の会場では、CVD装置とイオン注入装置など一部の装置を除けば、熱処理装置、コーター・デベロッパー、露光装置、プラズマエッチング装置、プラズマスパッタリング装置、CMP装置、洗浄装置など、半導体製造プロセスで使用される一連の装置群がほぼ揃った状態で展示された。ブースを訪れた人々にとっても、ミニマルファブの全体像がイメージしやすくなり、フルラインナップ完成までに残された課題も明確になってきたため、展示への反応もこれまでとは違った「本気の関心」が目立ったという。ミニマルファブの開発状況とこれからの課題について、原氏を取材した。

難易度高いCVD装置とイオン注入装置

SEMICON Japan 2012 ミニマルファブのブース

SEMICON Japan 2012 ミニマルファブのブースで展示されなかった装置は、CVD装置とイオン注入装置だけだった。この2つが完成すれば、ミニマルファブのプロセス装置がすべて出揃うことになる。原氏によると、これらの装置についても、ミニマル化を実現するための問題はほぼ解決しており、プロトタイプができつつある段階であるという。商品化できるレベルまで装置を作りこむために、今後2~3年の期間を要すると見ている。

CVD装置については、バルブの小型化と、キャリアガス使用量を少なくするためのプロセス開発が鍵となる。キャリアガスおよびその希釈に使われる窒素ガスの量を減らすことができれば、ボンベや排ガス処理装置が小型化され、装置全体をミニマル化できる。キャリアガスは0.5L/minまで抑えられると見込んでいる。

イオン注入装置については、どのように小型化するか3年かけて議論した。「現状のイオン注入装置は、多機能化されすぎて巨大なものになっている」と原氏は指摘する。シリコンウェハーにイオン注入するドーパント原子であるボロン、リン、砒素のうち、ボロンについては同位体であるボロン10とボロン11が存在する。現状のイオン注入装置では、これらの同位体を質量分離するために巨大な電磁石を使って磁場をかける。電磁石が加熱するため、その冷却装置も必要になり、さらに装置が巨大化する。そこでミニマルファブでは、質量数を1ずつ分離するような高性能なイオンの打ち分けをしなくても作れるデバイスは多いと考え、もっと大きな質量の分離だけを行う10cm角の小型の質量分離装置を開発した。

また、現状のイオン注入装置では、巨大なイオン源でイオン生成しても、実際にウェハーに到達するイオンは1/100程度となっており、ロスが非常に大きい。装置をミニマル化することで、イオンのロスも1/10程度に減らすことができるという。

CVDやイオン注入など、真空系装置では、真空搬送、真空ゲートバルブの開発も重要な課題だが、これについても技術的な目途は立っているという。真空技術については、さらにプロセス装置間の真空搬送も視野に入れて開発を進めており、ウェハーを収納する搬送用容器(シャトル)も真空仕様にできるように設計されている。プロセス全体を通した真空搬送は、いままでどのデバイスメーカーも実現していない技術だが、ミニマルファブではこれを最終的な開発目標の1つと位置づけているという。真空搬送は、有機半導体など酸素嫌うデバイスにも有効なプロセス技術であるため、今後の開発に注目したい。

プラズマ系エッチング装置・スパッタリング装置の課題

プラズマ系のエッチング装置とスパッタリング装置については、すでにプロトタイプが完成しており、SEMICON Japan 2012にも出品した。しかし、実際のデバイス量産に使用するには、まだ条件の変動が大きいため、商品として提供できるレベルの安定した装置に仕上げていくのが目下の課題であるとする。

プラズマエッチング装置の外観

プラズマエッチング処理の様子


プラズマは、高密度のパルスプラズマなどを使用している。大型の製造装置でパルスプラズマを発生させようとすると、超巨大な電源装置が必要になるため現実的でなくなるが、装置をミニマル化することで幅30cmの筐体に収まる電源でパルスプラズマが使えるようになったという。

ただし、これと同時に、平行平板型プラズマや高周波プラズマなど、オーソドックスなプラズマ装置のミニマル化も進めている。ミニマルファブでの開発では「なるべく保守的な技術を使うこと」を重視しているためである。「成功確率50%の新プロセスが10個並んだら、全体の成功確率は0.5の10乗でほとんどゼロになってしまう。装置を小型化するだけでも十分に難しいので、どうしても必要な部分以外ではなるべく変ったことをしないようにしている」と原氏は話す。

コーター・デバロッパーでは温度管理が鍵

パターン形成された1/2インチウェハー

クリーンルームという安定した環境をあえて切り捨てていることもミニマルファブの特徴である。クリーンルーム環境によらずにプロセス内へのパーティクル持ち込みを防ぐという課題についてはすでにクリアした。もう1つの課題は、温度変化に幅がある環境に対応できるプロセスの開発であるとする。空調が完璧なクリーンルームでは、室温は23℃で一定に保たれている。このため、既存のレジストは23℃ぴったりでコーティング条件が最良になるように設計されており、逆に言うと、温度が23℃より数度高くても低くても条件が悪くなってしまう。こうした既存のレジストを使いながら、夏冬で相当温度差があるオフィス空調レベルの環境で、年間通して安定したリソグラフィプロセスが実現できる装置の開発にはかなり苦労したという。

アプローチとしては、レジスト1滴2滴といった極めて小さな体積が温度一定であれば良いと考えて、そこだけを厳密に温度管理する方法が1つ。また、もう1つのアプローチとして、レジスト塗布の温度条件はある程度緩くしておいて、その後の露光・現像段階で補正できるようにプロセスレシピ全体を制御するやり方も考えられる。温度管理の課題をクリアすることで、コーター・デベロッパーについては、2013年4月から顧客受注を開始できる段階まで製品化が進んでいる。

ミニマルファブで作製した線幅2.16μmのライン&スペース。露光には波長365nmの i 線露光機を使用している

パターンはデジタル設計なので、このように斜線の部分に画素単位の段差が見えるのがシャープに露光・現像できている証拠。ウェハー上での1画素のサイズは0.54μm


廃液処理などの周辺技術も重要

装置を簡単に運搬できる専用台車も開発した。高精度位置決めが可能

 
「一般論としては、装置を小型化すること自体が最も難しい技術課題」と原氏は話す。仮にミニマルファブで規格化している装置サイズよりも4倍程度大きくすれば今すぐにでも実現できるが、長期的視点に立てば、無理してでもこのサイズまで小型化することで、ユーザーにとってのミニマルな装置のメリットがはじめて出てくるという。

ミニマルファブのメリットは、小さな設備投資で済むこと以外にも、危険物が拡散しにくく、安全性が高まることなどが挙げられる。配管長を最小限度まで短くできるし、装置の入れ替えやレイアウト変更が容易であり、地震や災害にも強いファブが実現できる。

露光やエッチング、CVDといった主要なプロセス技術以外にも、廃液処理や排ガス除害など周辺技術についてもミニマル化を進める必要がある。一部でもメガファブ的な要素を許容すると、結局メガファブのほうが有利だということになるため、すべての要素を完全にミニマルに作り直す必要がある。洗浄装置などからの排水は、1cc/minが目標値として掲げられており、現状では10cc/min程度に抑えられるようになってきている。これを1cc/minにできれば、洗浄液はヤクルトの瓶くらいの小さな容器1つで100回は使用可能になるという。容器の形態、運搬・装着方法などの標準化も今後の課題であるとする。(取材・執筆・撮影/荒井聡)


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