LCNら、スピンアイス中の磁気モノポールがブラウン運動のようにランダムに動くことを発見

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ロンドン・ナノテクノロジー・センター(LCN)とオックスフォード大学の研究チームが、「スピンアイス状態」と呼ばれる特殊な条件の結晶格子中に存在する磁気モノポールの挙動についての新たな知見を報告している。それによると、スピンアイスの中では磁気モノポールがランダムに動き回っており、その動きは水中の分子に見られるブラウン運動に似ているという。2013年2月26日付けの Nature Communications に論文が掲載されている。

図1 スピンアイス中での磁気モノポールのランダムな移動。緑の矢印の場所でトンネル現象が起こっている (Credit: LCN)

今回の研究は、スピンアイス状態を示す物質として知られている酸化物 Dy2Ti2O7 を対象としている。Dy2Ti2O7は、スピンを有する希土類ジスプロシウム(Dy)のサイトと、スピンを持たない遷移金属チタン(Ti)のサイトがそれぞれ正四面体の頂点を共有する格子構造のネットワークを形成しているという特徴がある。このうちスピンを有するDyサイトでは、磁性原子Dyの電子が正四面体の頂点に局在しており、各頂点でのスピンの方向については、4つのうち2つが正四面体の内側を向き、残りの2つが正四面体の外側を向くという性質がある(2イン・2アウト)。正四面体の頂点を共有するスピンの配置パターンが、氷(固体のH2O)における水素原子の配置パターンに類似していることから、スピンアイスという名前で呼ばれている。スピンアイス状態となる酸化物としては、Dy2Ti2O7 の他に Ho2Ti2O7 などが知られている。

LCNの研究グループは2009年に、スピンアイス Dy2Ti2O7 におけるスピンの挙動が、磁気モノポール的な性質を示すことを発見した(2009年の発表資料)。磁気モノポールは、磁石のS極だけ、またはN極だけからなる単極の磁荷であり、現在も素粒子としてはその存在が確認されていない未発見粒子である。スピンアイス中の磁気モノポールは、スピンの動きがあたかも単極磁荷のように振舞うという意味での擬似的な磁気モノポールであり、実際には粒子ではない。

図2 スピンアイスの構造と擬似的な磁気モノポール (T. Fennell et al., Science (2009) doi:10.1126/science.1177582)

 
図2は、スピンアイスにおける磁気モノポールの動きを表している。(A)は、正四面体の頂点を共有する格子ネットワークにおいて、各正四面体のスピンが2イン・2アウトの組み合わせを取ることを示している。イン方向とアウト方向のスピンがバランスしているので、系全体では磁性が見えていない。(B)では、この格子の一部に刺激を与えることによって、1つの頂点でスピンフリップ(スピン方向の反転)が起こる。その結果、スピンフリップが起きた四面体ではスピンの組み合わせが3イン・1アウト(または1イン・3アウト)に変わる。インとアウトのバランスが崩れるので磁性が生じる。(C)スピンフリップは、頂点を共有している隣の正四面体へと次々に移動していく。このため、もともと対になっていたN極(青の球)とS極(赤の球)の磁荷が離れ離れになって独立に動き出して見える。この磁荷の動きが、擬似的な磁気モノポールであると考えることができる。

今回の研究では、こうしたスピンアイス中での磁気モノポールの動きが、ブラウン運動のようにランダムになることが示唆された。磁気モノポールのブラウン運動的挙動は、量子力学的トンネル現象によるものであるという。研究チームは、音響周波数で振動させた磁場中でのスピンアイス物質の断熱反応を測定することによって、こうした知見を得たとしている。

研究チームのLCN教授 Steve Bramwell 氏は今回の研究について、「磁気モノポールがA地点からB地点にどのように移動するのかを理解するための第1ステップである」とし、「それが解明できれば、低消費電力でのデータ処理といった有用な目的に磁気モノポールの動きを利用することも夢ではなくなる」と話している。


発表資料

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