京大、多孔性金属錯体を利用して汎用プラスチックをスーパーエンプラ化

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京都大学 大学院工学研究科 准教授 植村卓史氏、同大 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)拠点長・教授 北川進氏らの研究グループが、伊ミラノ・ビコッカ大学と協力し、多孔性金属錯体のナノ空間を反応場とすることでプラスチック分子の一本一本を同じ方向に高精度で整列させる新しい分子連結法の開発に成功した。高分子の鎖同士が精密に架橋されているため、熱や溶媒に対しても鎖の整列状態が安定に保たれ、従来のプラスチックに比べて高密度で高強度な材料になるという。金属に代わるプラスチックとして自動車、電気・電子、機械など多分野で需要が高まっているエンジニアリング・プラスチック(エンプラ)を簡便かつ効率的に生産できる新手法になると期待される。2013年2月24日付けの Nature Chemistry に論文が掲載されている。

多孔性金属錯体 (出所:京都大学)

プラスチック中の高分子鎖は、通常、糸がぐしゃぐしゃに絡まり合ったようにして存在しているため、潜在的に持っている材料特性を生かし切れていないとされる。高分子鎖の絡み合いをほどいて精密に整列させることができれば、力学物性、光学特性、異方性において優れた材料を産み出すことが可能になると考えられる。これまで電界処理、延伸、摩擦、液晶基導入などにより、高分子鎖の配向を制御し、強くて耐久性のある繊維や機能性光学フィルム、エンプラ材料の開発が行われてきたが、こうした従来法で高分子鎖を完全に整列させることは困難であり、熱や溶媒処理に対して弱いものも多かった。

今回の研究では、多孔性金属錯体(MOFまたはPCP)の一次元ナノ細孔内で高分子の合成と架橋を同時に行い、反応後にPCPを除去することで一本一本の高分子鎖が同じ方向に整列した新しいプラスチック材料を開発することに成功した。この手法により、元来、整列しないものであったビニル高分子を分子レベルで整列させることができ、低性能な汎用プラスチックを簡便かつ合理的にスーパーエンプラ材料へと高性能化できる可能性を示した。

ホスト-ゲスト架橋重合法の概念図 (Gaetano Distefano et al., Nature Chemistry (2013) doi:10.1038/nchem.1576)

 
ジビニル基を配位子として導入したPCPの一次元細孔内に高分子の原料となるモノマーのスチレンを導入後、その連結化と架橋を同時に行い、得られた複合体からPCPのみを除去することで、高分子を抽出した(ホスト-ゲスト架橋重合法)。ミラノ・ビコッカ大学との協力により、得られた高分子は鎖同士が架橋したポリスチレンであることを確認した。このポリスチレンの粉末 X 線回折測定を行ったところ、一般的な合成法(溶液中やバルク状態での合成)では鎖がぐしゃぐしゃに絡まっているために見られない回折ピークが確認された。これはPCPの一次元空間を反応場とすることで、高分子鎖の配向が制御され、整列状態にあることを示唆している。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、ポリスチレンの鎖が分子レベルで一次元的に整列している像が確認された。

分子レベルで整列したポリスチレンの電子顕微鏡写真 (出所:京都大学)

 
このような整列状態は高分子鎖同士が架橋されているため非常に安定しており、ポリスチレンをよく溶かす有機溶媒にも溶けず、通常なら約110℃の熱でドロドロになるのに対し、約200℃で処理しても、その整列構造が乱れなかった。ポリスチレンの比重測定を行うと、通常1.04g/cm3の密度であるのに比べて、1.13g/cm3と遙かに高く、ぎゅうぎゅうにポリスチレンの鎖が整列していることが分かった。ポリスチレンなどの汎用プラスチック材料が、この手法によって耐溶剤・耐熱性を備えた高強度スーパーエンプラに生まれ変わる可能性があることが示された。

ホスト-ゲスト架橋重合法の特徴として、他の様々なビニル高分子にも使えるという汎用性の高さも挙げられる。原料モノマーをスチレンからメタクリル酸メチルに代えて実験を行うと、上述のポリスチレンと同様の整列状態を示すポリメタクリル酸メチルが合成できた。一般的には結晶性や配向性を示さないビニル高分子を簡便かつ効率的に分子レベルで整列できることから、産業的にも価値の大きな成果であるといえる。自動車やエレクトロニクスをはじめとする幅広い分野での利用が期待される。


発表資料

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