スタンフォード大、生きたままの細胞に光共振器を挿して長時間観察に成功

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スタンフォード大学の研究チームが、生きたままの細胞の内部に光共振器(発光プローブ)を挿入する技術を実証した。デバイスを挿入した状態でも細胞は損傷されず、通常通りに機能し、移動したり増殖したりするという。レーザー光やLEDを使った生体細胞の新しい研究手法への応用が期待される。2013年2月6日付けの Nano Letters に論文が掲載されている。

プローブを挿した細胞のSEM画像 (Credit: Gary Shambat, Stanford School of Engineering)

今回の研究に使われたデバイスは、円い穴の列が並んだ I 字形の梁材(ビーム)に似た形状をしているため、「ナノビーム」と呼ばれている。サイズは、長さ数μm、幅と厚みが数百nm程度。デバイス上に並んで開いた穴が鏡のように作用し、ビーム中央に光が集光されて増幅され、光共振器となる。

このデバイスは、ナノスケールのレーザーやLEDの構成部品として利用することができる。論文の首席執筆者であるスタンフォード大の電気工学教授 Jelena Vuckovic 氏は、「フォトニクス用デバイスとしての光共振器には基礎物理からナノレーザー、バイオセンサまで幅広い応用範囲があり、生物学研究に対して大きなインパクトを与える可能性がある」と話す。

細胞レベルでは、ナノビームは細胞壁を無傷で突き通す針のように振舞う。挿入したナノビームを発光させることで、様々な研究に利用できると考えられる。これまでナノチューブやナノワイヤなどを細胞に挿入する先行研究はあったが、光共振器のような複雑な光学部品が生体細胞内部に挿入されたのは今回がはじめてとなる。

今回の研究で使われた細胞は、前立腺腫瘍に由来するものであり、この技術が癌の研究用のプローブとしても利用できる可能性を示唆している。細胞中の特定タンパク質のリアルタイムセンシング用途がまずは想定されるが、DNAやRNAといった重要な生体分子の検出一般に対しても、プローブとして適用可能であると考えられる。

細胞に挿入されたナノビーム。ビーム上に開いた穴やデバイスのサンドイッチ構造が見える (Credit: Gary Shambat, Stanford School of Engineering)

 
これらの生体分子を検出するには、ある種の有機分子や抗体でプローブをコーティングすることによって、狙ったタンパク質を引き寄せるという方法が取られる。目当てのタンパク質が細胞中に存在する場合は、そのタンパク質がプローブに集まり始めることで、プローブの発する光の波長がわずかにシフトする。この変化を検出することで、目的のタンパク質の存在確認や定量化が可能になる。将来的には、患者個々人に合わせた癌治療のために、生体埋め込み可能なバイオ光学センサが利用できるようになる可能性もあるという。

今回のデバイスは、ガリウム砒素半導体薄膜層と量子ドット層のサンドイッチ構造になっている。チップまたはウェハーを彫って形成されたデバイスは、厚い基板上に固定されている。しかし、バイオ用途を考えると、厚くて重い基板は個々の細胞との接触という点で問題が大きい。下層にあるナノ共振器が固い基板に固定されてしまい、細胞壁を貫通することができなくなるからである。この問題は、薄膜デバイスを基板から剥がし、光ファイバーケーブルに接着することで解決された。ケーブルを用いることで、針状のプローブを操って細胞に挿入できるようになった。

挿入されたプローブの発光は細胞の外側からも観察できる。研究チームは、プローブを挿入した状態で細胞が成長し、実験環境中を移動し、増殖する様子を観察した。細胞が分裂すると、ナノビームは分かれた細胞の一方の側に残って機能し続けたという。これにより、細胞を死なせたり、一か所に固定しなければならない従来の検出法では不可能だった長時間にわたる生体細胞の持続的研究ができるようになった。プローブを挿した状態で1個の生体細胞を8日間連続で観察することもできた。細胞内にプローブを長時間とどめておけるため、将来的には細胞に対してセンサのフィードバックやコントロール信号を送ることも可能になるとしている。


スタンフォード大学の発表資料

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