ロスアラモス研究所、量子暗号を用いた電力網制御データ通信安全化技術を実証

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米ロスアラモス国立研究所が、量子暗号を用いた電力網制御データ通信の実証実験に成功した。実験は、米国エネルギー省が実施する電力網向け高信頼性サイバーインフラ開発プロジェクト Trustworthy Cyber Infrastructure for the Power Grid(TCIPG)の一環として、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に設置されている試験設備を使って行われた。

ロスアラモス研究所が開発した小型の量子暗号トランスミッタ (Credit: Los Alamos National Laboratory)

電力網の制御技術は、短時間で変動する再生可能エネルギーに対応することが必要になってきており、そのためにはコントロールセンタとのデータのやりとりが必要になる。電力網制御においては、データの高信頼性と同時に遅延のないデータ送信が不可欠となるが、標準的な暗号技術によって、これらの要求を同時に満たすことは困難であるとされる。

量子暗号は、通信の傍受・攻撃を試みる敵対者の存在を検知し、その行為を無効化する手段を提供する。単一光子を用いて通信利用者間で安全な乱数を生成し、この乱数を利用して、電力網制御データおよびコマンドの認証と暗号化を行う。乱数は安全に生成されるため、データ認証と暗号化アルゴリズムのための暗号鍵として利用することができるという。

QKarD」と呼ばれる小型の量子暗号トランスミッタが、今回の実験で通信システムに量子的安全性を与えるための主要技術となっている。QKarD は、競合する他の量子暗号デバイスと比較して5桁も小さなサイズを実現しており、電力網制御通信への適合性が高いものであるという。

2012年末に行われたイリノイ大での実験では、必要とされる強度の安全性を、要求値より少なくとも2桁低いレイテンシで提供できることが示された。25kmの光ファイバで接続された2つのノード間のレイテンシは、120~250マイクロ秒だった。1本の光ファイバによって、単一光子によるデータパケットおよびコマンドの伝送ができることも実証された。このシステムを、複数のモニタ・複数のコントロールセンタに拡張することも可能であるという。

TCIPGの試験設備では、現行の電力網監視で実際に使用されている位相ベクトル測定ユニット(PMU)など、現実の電力網の環境をデジタルシミュレータによって忠実に再現することができる。実験では、シミュレーションで動いているパワー・バスモデルを障害導入によって撹乱。これによってPMUにアナログ信号が入力され、PMUと量子暗号装置との間で標準プロトコルによる通信が行われた。量子暗号装置は、全長25kmの光ファイバを通じて、暗号鍵の生成、通信、暗号化/複合化処理を実行。位相ベクトルデータ収集器によってデータが収集され、図像化された。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の工学教授で TCIPG 研究責任者である William H. Sanders 氏は、今回の実証実験について「現実の電力モデルを再現しただけでなく、エネルギーセクターで既に広く普及しているハードウェア、ソフトウェア、標準通信プロトコルを利用している」とコメント。実験の成功は、TCIPGの試験設備の有効性とロスアラモス研究所が開発した量子暗号技術の強さを強調するものであるとしている。

ロスアラモスの研究チームは、量子暗号による通信安全化に関して米国内外で23件の特許申請を行っているとのこと。すでに電力網制御セクターの企業各社から2件の特許ライセンスについて引き合いを受けており、特許ライセンスが可能になる2013年の早い時期に産業界向けのワークショップ開催を計画している。また、QKarD のさらなる小型化・高集積化・低コスト量産化を実現するための研究開発への出資も募っているという。


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