京大ら、量子ゆらぎの影響で超伝導電子が重くなる異常現象を発見

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京都大学の研究グループが、米アルゴンヌ国立研究所、英ブリストル大学、およびポーランド科学アカデミーの研究グループと共同で、超伝導電子がある特定の方向でのみ重くなり、非常に動きにくくなる特異な超伝導状態を発見した。物質の化学的組成を変化させるなどして磁性を消失させた非従来型超伝導体において、絶対零度で現れる量子ゆらぎが超伝導電子に及ぼす詳細な機構を初めて明らかにした。京大 理学研究科准教授 芝内孝禎氏、同教授 松田祐司氏、東北大学助教 橋本顕一郎氏らが報告した。2013年2月11日付けの米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン速報版号に論文が掲載されている。

図1 組成比と温度を変化させたときの状態相図の概念図 (出所:京都大学)

近年、銅酸化物高温超伝導体や鉄系高温超伝導体のように高い超伝導転移温度を持つ非従来型超伝導に注目が集まっている。非従来型超伝導には、磁気秩序を持った状態の近傍に現れるという特徴があり、化学元素置換などによって磁気秩序を消失させることにより、図1のようなドーム型の超伝導の領域が出現する。磁性と隣り合う非従来型超伝導は鉄系高温超伝導体だけでなく、有機化合物や、希土類化合物などの強相関電子系とよばれる物質群で広く出現することが知られており、その共通の理解が求められている。

磁気秩序の境界が絶対零度に近づくと、量子力学的な磁気ゆらぎが増大することが知られている。このゆらぎが非従来型超伝導の引き金となって高温超伝導が出現するという磁気的機構が提唱されている。しかし、超伝導状態では電気抵抗がゼロになるなど、多くの物理量が観測困難となるため、これまで磁気的な量子ゆらぎが超伝導電子にどのような影響を及ぼすのかほとんど明らかになっていなかった。

超伝導では二つの電子がペア(クーパー対)を組んで結合した状態となっており、クーパー対の結合が壊れると超伝導状態は壊れてしまう。クーパー対の結合の強さは「超伝導ギャップ」と呼ばれており、磁気的な機構によって生じる非従来型の超伝導体では、クーパー対の動く方向によってその値が異なる。その結果、ある特定の向きをもつクーパー対では、絶対零度においても超伝導ギャップの大きさがゼロとなることが知られている。例えば、d波超伝導体とよばれる非従来型超伝導体では、図2のように超伝導ギャップの大きさはクローバーのような形をしており、縦横の方向では最大に、斜め方向ではゼロになっている。

図2 電子の動く方向の角度を変化させたときの超伝導ギャップを模式化したもの (出所:京都大学)

 
研究グループはこのような磁気秩序消失点(図1中の矢印)の近傍に位置する様々な超伝導体(希土類化合物、鉄系化合物、有機化合物)において、磁場侵入長とよばれる物理量の温度変化を60ミリケルビンという極低温まで精密に測定した。磁場侵入長は超伝導が磁場を遮蔽する能力を表す物理量。超伝導電子の密度と重さ(有効質量)と密接な関係にあり、超伝導を記述する上で最も基本的かつ重要な量とされる。測定の結果、クローバー型の超伝導ギャップの形のみを考慮した理論で期待されていた温度に比例した変化ではなく、温度の3/2乗に比例した異常な温度変化を普遍的に示すことが発見された。

このような異常な振る舞いは、超伝導電子の重さや速さが方向によって変化すると考えると、うまく説明することができる。研究グループは、図2のようにクローバー型の超伝導ギャップに応じて、電子の速さもクローバー型に変化する時の磁場侵入長の温度依存性を計算し、実験結果を非常によく再現することに成功した。このことは、ギャップがゼロの方向に動く電子は重さが重く、速さが遅くなり、非常に動きにくくなっていることを示している。電子が重くなる原因は磁気的な量子ゆらぎによると考えられる。量子ゆらぎが超伝導電子に直接影響を及ぼしていることが初めて明らかとなった。

磁気秩序近傍の多くの超伝導物質では、量子ゆらぎが最大となる磁気秩序消失点で転移温度が最も高くなる振る舞いを示している。今後、今回の研究結果の理論的な理解が進むことで、高温超伝導発現機構の解明への手がかりが得られることが期待される。


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