東京工業大学資源化学研究所の吉沢道人准教授らが、蛍光発光するカプセル型のミセルを開発した。ミセルの構成成分として、蛍光性でパネル状のアントラセンを含む「湾曲型」の両親媒性分子を開発することで実現した。新型ミセルは、ナノレベルでサイズ制御が可能で、色素分子を内包し、特異な蛍光性能を備えている。有機ELや蛍光センサ・プローブ、蛍光塗料など、新しい有機発光材料への応用が期待される。2013年1月23日付けの Angewandte Chemie International Edition に論文が掲載されている。
新規開発された両親媒性分子では、疎水性部位として従来の鎖状で柔軟なアルカンの替わりに、パネル状で剛直な芳香族分子であるアントラセンを利用した。アントラセンのパネル状分子を2つ、120度の角度で連結した湾曲型の疎水性骨格を考案し、その湾曲部の外側に親水性の官能基を持たせた。湾曲型の両親媒性分子の合成では、根岸カップリング反応を利用することによって、煩雑な精製作業なしに簡単な洗浄操作で目的分子をグラムスケールで合成できた。湾曲型分子は水中、80℃で1分間程度加熱するだけで、収率100%で目的のミセルを形成した。その構造は、原子間力顕微鏡(AFM)などの粒子径の解析によって、外径が2nm程度に規制され、4~6つの湾曲型分子から構成される球状のカプセル構造体であることが分かった。
このミセルには、既知のミセルには見られない特徴が3つある。第1の特徴として、両親媒性分子の湾曲型のパネル部位(アントラセン部位)同士がπ-スタッキング相互作用することによって、ミセルを形成している点が挙げられる。従来のミセル形成では、水中での疎水性相互作用が駆動力となっていた。このように駆動力が変わっても、形成されたミセルは従来と同等以上の安定性を示し、70℃程度の高温条件、強酸性や強塩基性条件でもミセル構造が維持されるという。

(a) ミセルの原子間力顕微鏡の画像。(b) その拡大図(山の部分がミセルに由来)。(c) 原子 間力顕微鏡から求めたミセルサイズのヒストグラム。(d) 計算で求めた4つの両親媒性分子から なるミセルの構造 (出所:東京工業大学)
第2の特徴は、湾曲型の両親媒性分子のπ-スタッキング相互作用によって厳密にサイズ制御されること。従来のミセルの多くは、疎水性のアルカンに親水性の官能基を連結したひも状の両親媒性分子からなり、水中で疎水性相互作用によって球状集合体を形成する。こうしたミセルは幅広いサイズ(数~数十nm)の混合物として存在する。一方、今回のミセルは、剛直な両親媒性分子から形成され、2nm程度にサイズ制御されたカプセル状の構造体となる。従来のミセルより濃度依存性が低く、1mM~数10mMの範囲で同サイズとなるため、ミセルによるサイズ選択的な疎水性分子の内包が可能となる。

(a) ミセルによる色素分子(G = DCM, NR)の内包。(b) 水中でのミセルおよび色素分子を 内包したミセルの写真と紫外可視吸収スペクトル。(c) ミセルおよび色素分子を内包したミセル の紫外光照射下(370 nm)での写真と蛍光スペクトル (出所:東京工業大学)
第3の特徴は、その特異な蛍光性能である。アントラセンは通常、紫外光照射により青色に発光する。これに対して、水中で形成したミセルは、π-スタッキングしたアントラセンに由来して、緑白色に発光する。また、蛍光性ミセルは水中で、種々の色素分子を内包して特異な蛍光発光を示す。例えば、通常、短波長の光照射(370nm)では発光しない色素分子DCMは、ミセルに内包されることで、その光照射でも特異的に赤色発光した。この現象は、ミセルに含まれるアントラセン部位が短波長の光を吸収し、そのエネルギーを内包したDCMに高効率で転移することで(97%効率)、DCMからの強い蛍光が発することに起因するという。
今回のミセルは、既存のミセルにない厳密なサイズ制御と色素分子の内包能、特異な蛍光性を備えることから、新しい発光性材料への応用が期待される。また、この分子設計を応用して、種々のパネル状の芳香族分子を活用したミセルを構築することで、多様な蛍光色やサイズをもつ光機能性ミセルの開発も期待できる。
発表資料
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