カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームが、液体ナノレンズを使った新しい光学顕微鏡技術を開発した。100nm以下のサイズの微粒子やウイルスなどが広い範囲にまばらに散らばっているような試料でも、微粒子やウイルスを1個単位で検出できる。医療・診断用途での応用が期待される。2013年1月20日付けの Nature Photonics に論文が掲載されている。
通常、ナノスケールの対象物による光の散乱からは微弱な信号しか得られないため、光学顕微鏡での直接観察は難しい。従って電子顕微鏡(SEM)による観察が中心となるが、SEMの場合も、コストが高くスループットにも限界があること、視野が狭い(通常0.2mm2未満)といったが弱点がある。特に、試料中の密度がまばらなウイルスなどを観察するときには、視野の狭さが問題となる。
こうした課題を克服するため、UCLAの電気工学・生物工学准教授 Aydogan Ozcan 氏を中心とする研究チームは、非球面型の液体ナノレンズを利用して散乱光と背景光のコントラストを強める光学顕微鏡の新手法を開発した。特殊な液体を試料に流すと、対象物(ナノ粒子)とガラス基板の周りで液体が自己組織化し、厚さ200nm以下の凹凸レンズが形成される。この液体ナノレンズとナノ粒子の集合体に向けて、LEDのような単純な光源から光を照射すると、液体ナノレンズが位相マスクとして働くことでナノ粒子のホログラム回折パターンが表れる。この回折パターンをシリコン半導体センサで検出する。コンピュータ上での計算処理によってホログラムを再構成することで、ガラス基板上のナノ粒子を単体検出できるようになる。
この方法で、100nm以下のサイズのナノ粒子やウイルスを20mm2以上という広い視野の中で1個ずつ検出することができる。論文では、実際の観察事例として、ポリスチレンナノ粒子、アデノウイルス、インフルエンザA型(H1N1)ウイルスなどの検出を行っている。
図1は、インフルエンザA型(H1N1)ウイルスのホログラム検出像で、スケールバーは10μm。図2(a)は、実験装置の設定を図示したもの。図2(b)は、液体ナノレンズありの場合となしの場合のSEM像および数値モデル。図2(c)は、液体をナノ粒子の周りで自己組織化させた試料の作成手順を示している。図3左側3列も、インフルエンザA型(H1N1)ウイルスのホログラム検出像。これに対して右側の1列は、明視野方式の油浸対物レンズによるH1N1ウイルスの観察像である。右端のSEM像はH1N1ウイルス単体を捉えたもの。
低コストかつ効率的にナノスケールの粒子・ウイルスの検出を行える手法であることから、患者の検体を病院外の専門検査施設に持ち出すことなくその場で診断し検査結果を知ることができるポイント・オブ・ケア技術や、使用できる医療機器装置に制約がある地域での診断などに役立つと期待される。
UCLAの発表資料
おすすめ記事
- UCLA、スマホに装着できる蛍光顕微鏡を開発。ウイルス・細菌などの検出に利用
- UCLA、DVDライトスクライブバーナーを使ったグラフェン・マイクロスーパーキャパシタ形成法を開発
- UCLA、分子のキラリティが自然発生する現象を解明。エントロピーが関与
- UCLA、酸化ニオブを用いた高性能スーパーキャパシタ材料を開発。大容量での急速充放電が可能に
