MIT、熱を光のように扱う「サーモクリスタル」技術を提唱

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マサチューセッツ工科大学(MIT)の材料科学・工学研究者 Martin Maldovan 氏が、熱伝導制御に関する新しいアプローチを提唱している。フォトニック結晶およびフォノニック結晶の技術を拡張することによって、光をレンズで集束したりミラーで反射させるのと似た方法で熱を操作できるようにするという。2013年1月9日付けの Physical Review Letters に論文が掲載されている。

サーモクリスタルの応用例 (Martin Maldovan, Physical Review Letters (2013) doi: 10.1103/PhysRevLett.110.025902 )

熱は、音と同様に、材料中を伝わる振動(原子の格子振動)である。こうした振動は、仮想粒子であるフォノンの流れとして扱うこともできる。ナノ構造を有する半導体フォトニック結晶を使って光子を操作するのと似たやり方で、フォノニック結晶による音響フォノンの操作を行う研究は、近年活発に進んでいる。今回の研究では、この技術をさらに進め、熱フォノンについても「サーモクリスタル」(熱結晶)を使って操作できることが示されている。

振動としての熱と音の違いは、周波数の違いであると Maldovan 氏は説明する。音の振動周波数は最大でもキロヘルツのレベルだが、熱の振動周波数はテラヘルツレベルである。また熱フォノンの周波数の帯域分布は音と比べて広い。このため、すでに開発されているフォノニック結晶による音響フォノン操作技術を熱の操作に応用する場合、熱フォノンを狭帯域化してから周波数を下げ、音の周波数領域に近づける必要があるとする。Maldovan 氏は、熱フォノンと音響フォノンの境界領域まで周波数を下げた熱フォノンのことを「極超音速熱」(hypersonic heat)と呼んでいる。

極超音速熱のレベルでの周波数低減は、ナノ構造化された薄膜材料を使うことで可能になるという。ナノ構造においては、拡散界面での散乱を通じてフォノンの平均自由行程(粒子が散乱せずに進める距離)が短くなることで、熱伝導率 κ が低減する。 κ の低減とともに、熱フォノンの周波数も低周波側にシフトすると考えられる。今回の研究では、ナノ構造を有するシリコンにゲルマニウムのナノ粒子を含有させた薄膜について、その熱フォノンに対する周波数・熱伝導特性をコンピュータによるシミュレーションを用いて評価し、こうした効果が実際に得られることを確認した。

また、高周波フォノンをブロックするためには、不純物や転位、ゲスト原子、非晶質などが利用できるという。極端な低周波フォノンをブロックするためには、結晶粒界や界面が利用できる。これらによって、熱フォノンの周波数を狭帯域化できると考えられる。

Maldovan 氏は、サーモクリスタルによる熱操作技術が適用できる用途として、図中の(a)熱導波路、(b)熱格子、(c)熱イメージング、(d)熱オプティクス、(e)熱ダイオード、(f)熱の不可視化(クローキング)などを挙げている。これらの技術はすべて、フォトニクスおよびフォノニクスでは既に実証されている。今回の研究はシミュレーションによるものだが、モデルとして扱ったナノ構造体などの技術は広く実験的に使われているものであり、サーモクリスタルを用いた実デバイスによる熱操作の実現可能性は十分あると考えられる。


MITの発表資料

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