BNL、30テスラの強磁場中でも高い臨界電流密度を示す鉄系高温超伝導薄膜を作製

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ブルックヘブン国立研究所(BNL)を中心とする米国の研究チームが、鉄系高温超伝導体を用いた臨界電流密度の高い超伝導薄膜の作製に成功した。抵抗ゼロの状態で超伝導体に流すことのできる最大電流値である臨界電流密度が、30テスラの強磁場中で 105 A/cm2 のオーダーに達している。超伝導薄膜のバッファー層として二酸化セリウム層を加えることで臨界電流密度が向上したという。2013年1月8日付けの Nature Communications に論文が掲載されている。

BNLの物理学者 Weidong Si 氏(左)と Qiang Li 氏。手前の装置はパルスレーザー堆積法による超伝導薄膜の作製に使用した真空チャンバ (Credit: BNL)

強磁場中での臨界電流密度は銅酸化物系高温超伝導体で高い値が報告されているが、材料構造の脆さや強い異方性といった性質から、線材としての加工にはコスト的な課題が多い。このため、MRIなどで使用されている従来のニオブ・スズ系超伝導線材を代替するには至っていない。

一方、鉄系高温超伝導体は半金属であるため、材料的な不安定性がかなり小さく、長尺の線材に加工しやすいという特徴を持っている。また、磁場中での挙動が等方的であるため、MRIなど強磁場を用いる機器での使用も行いやすいと考えられる。ただし、こうした用途で鉄系高温超伝導体を実用化する上では、臨界電流密度の低さが制約要因となっていた。

研究チームは今回、パルスレーザー堆積法によって、金属基板と超伝導体の間に二酸化セリウムのバッファー層を挟んだ構造を持つ鉄系超伝導薄膜 FeSe0.5Te0.5 を作製した。この超伝導薄膜の特性を評価したところ、絶対温度4.2Kの自己磁場中での臨界電流密度が 106 A/cm2 のオーダーに達した。また、30テスラの強磁場中でも臨界電流密度 105 A/cm2 のオーダーを記録した。これは、超伝導転移温度 Tc の低い金属系超伝導体と比べても高い値であることから、MRIなど液体ヘリウム温度での強磁場用途において鉄系超伝導体が有望な材料であることを示しているといえる。

今回の鉄系超伝導薄膜における温度、磁場、臨界電流密度の相関。(a)は二酸化セリウムのバッファー層を設けたYSZ基板、(b)はRABiTS基板を用いたもの (Weidong Si et al., Nature Communications(2013) doi:10.1038/ncomms2337)

 
なお、今回の研究では、超伝導体をエピタキシャル成長させる基板材料として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの単結晶材料および RABiTS法(Rolling Assisted Biaxially Textured Substrate)によるニッケル-タングステン合金基板を使用した。RABiTS基板はオークリッジ国立研究所(ORNL)が開発した超伝導材料用基板であり、低コストな圧延・熱処理によって金属基板を結晶配向させることができる。

YSZ、RABiTS基板ともに高い臨界電流密度が得られたが、論文によると、RABiTS基板を用いた場合、面内の結晶粒界に 6° のずれ(傾角)があっても、傾角がより小さい単結晶基板よりも良い値を示したという。

X線構造解析の結果、RABiTS基板の結晶粒界の傾角は平均 7° あったが、Y系銅酸化物高温超伝導体で報告されているような傾角の影響による臨界電流密度の急激な低下は見られなかった。これは、2011年に東京工業大学の細野秀雄教授のグループが発表した「鉄系超伝導体では臨界電流密度が9° の傾角粒界まで維持される」とする研究とも一致している(東工大の発表資料)。細野グループが報告した鉄系超伝導体 BaFe2As2 はプニクタイドだが、今回の材料 FeSe0.5Te0.5 はカルコゲナイドである。


発表資料

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