東京工業大学大学院理工学研究科の鈴木寛治教授らが、機能性有機分子の合成に有用な鍵中間体である「オキサトリメチレンメタン」を、熱を使わずに光反応だけで発生させることに成功した。ルテニウムを水素で結合した集合体「ルテニウムヒドリドクラスター」を開発し、これとアセトンとの光反応によって実現した。この方法は反応機構的に新しく、アセトンの炭素-水素結合を直接切断するため、合成ステップが最小で済み、副生成物もない。ルテニウムクラスターの反応には、太陽光を利用することができる。2013年1月2日付けの Angewandte Chemie International Edition に論文が掲載されている。
これまで有機金属錯体触媒を用いた反応開発が盛んに行われてきたが、アセトンのような単純な化合物から直截的に活性種を発生させることは難しかった。このため、プロセス的に優れた合成手法の開発が待たれていた。
今回開発された光反応では、アセトンの炭素-水素結合が活性化されて、ダイレクトにトリメチレンメタン種が発生する。二核ルテニウムテトラヒドリド錯体(クラスター)とアセトン類(2-アルカノン)の混合溶液に、波長365nmの紫外光を照射すると、ほぼ定量的にトリメチレンメタン種が得られるという。この反応は、熱では進行せず、光照射によってのみ実現される。反応メカニズムは、光照射によって発生する高活性な励起状態のクラスターがアセトンの炭素-水素結合を活性化・切断し、トリメチレンメタン種が発生するものと考えられる。従来の金属錯体触媒を用いる方法では、アセトンをいったん化学修飾して反応性を向上させる必要があった。
オキサトリメチレンメタン種から得られる有機合成中間体は、エレクトロニクス、エネルギー・環境分野で使われる機能材料、高分子材料、医薬品などの出発原料として利用されている。今回の方法は、最小の反応ステップ数で副生成物の産出もないことから、有機合成中間体の優れた製造プロセスになると考えられる。ルテニウムクラスターは、波長371nmおよび490nmの可視領域付近に吸収帯を持つ。可視光の照射によっても反応進行することが明らかとなっており、太陽光を利用した有機合成中間体の製造プロセスへの応用も視野に入っている。
東京工業大学の発表資料
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