マックス・プランク研究所ら、絶対零度より低温の気体を実証。熱効率100%超の内燃機関が実現可能に?

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マックス・プランク研究所とルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの研究チームが、絶対零度を下回る温度(マイナスのケルビン温度)を持つ原子ガスを作製したと報告している。ケルビン温度がマイナスとなる物質を利用することで、熱効率が100%を超える内燃機関が実現する可能性がある。また、原子ガスの挙動に、宇宙の加速膨張の原因と考えられているダークエネルギーに類似した性質があるため、天文学的な面からも関心が持たれているという。2013年1月4日付け Science に論文が掲載されている。

図1 マイナスのケルビン温度では粒子のエネルギー分布が通常とは反対になる (Credit: LMU and MPG Munich)

常識的には、物質の温度が絶対零度(約-273℃)より低くなることはあり得ないと信じられてきた。しかし、今回の実験では、気体中の分子のエネルギー準位の分布を表す「ボルツマン分布」が通常の気体(プラスのケルビン温度を持つ気体)とは逆になるように条件を整えることによって、マイナスのケルビン温度を持つ原子ガスを実現したとしている。

自然界に普通に存在する系のボルツマン分布では、ほとんどの粒子が低エネルギー状態であり、一部の粒子だけが高エネルギー状態となっている。系の中のすべての粒子のエネルギー準位が最低レベル(基底状態)になるときの温度が絶対零度である。

一方、今回の原子ガスでは、ほとんどの粒子が高エネルギー状態であり、一部の粒子だけが低エネルギー状態となるように条件が整えられており、ボルツマン分布が通常の系から反転する。

図2 ボルツマン分布をビー玉に例えて図解 (Credit: LMU and MPG Munich)

 
ボルツマン分布を分かりやすく説明すると、起伏のある場所にたくさんのビー玉を置いた状態に例えることができる。日常の世界では、ほとんどのビー玉が、くぼんだ谷間の部分に溜まって動かなくなる(図2左)。ビー玉は位置エネルギーも運動エネルギーも最小の値をとるため、すべてのビー玉の状態を合計すると高エネルギー状態よりも低エネルギー状態になりやすい。これはケルビン温度がプラスとなる通常の系でのボルツマン分布に相当する。

系の温度が無限大になる場合、ボルツマン分布は、ビー玉が起伏に関係なく一様に散らばっている状態に例えられる(図2中央)。これは、すべてのエネルギー状態が同じ確率で存在することを意味している。

ケルビン温度がマイナスとなる系は、盛り上がった丘の上にほとんどのビー玉が集まって動いている状態に例えられる(図2右)。丘の高さは位置エネルギーの上限に相当する。また、ビー玉の運動エネルギーも最大化する。系全体のエネルギー状態は、低エネルギーよりも高エネルギー状態になりやすく、ボルツマン分布が反転していることになる。

このようなボルツマン分布の反転は、通常の水や気体など自然に存在する系では不可能であるとされる。仮にボルツマン分布が反転したとすると、それらの系では無限大の量のエネルギーが吸収できることになるからであるという。しかしながら、今回の実験では、粒子のエネルギーに上限がつくように条件を整えれば、実際にボルツマン分布を反転できることが示されている。

実験では、最初に原子10万個程度を真空チャンバ内で冷却して、プラス十億分の数ケルビンまで温度を下げ、この極低温の原子ガスをレーザービームを用いた光学トラップで捕獲する。超高真空条件下であるため、原子は周囲環境から熱的に完全に遮断される。レーザービームによって光格子の状態が作りだされ、原子は格子サイトの位置に規則的に配列する。この格子中でも、原子はトンネル効果によってサイト間を移動することができるが、原子の運動エネルギーには上限がある。また、運動エネルギー以外で温度と関係している原子間相互作用や位置エネルギーについても、今回の系では制限が設けられる。こうして与えられた全エネルギーの上限境界に原子を持っていくことで、マイナス十億分の数ケルビンという温度が実現される。

ビー玉の例でいうと、図2右のように運動エネルギーが丘の上ですでに上限に達している場合、ビー玉はそれ以上の運動エネルギーによって谷間に転がり落ちることができず、丘の上に留まって安定する。今回作られたマイナスのケルビン温度を持つ原子ガスでも、プラスのケルビン温度を持つ通常の気体と同様に安定した状態を保てることが確認されている。運動する粒子においてマイナスのケルビン温度が実現された初めての例であるという。

研究チームによると、マイナスのケルビン温度を持つ物質を利用することで、熱効率が100%を超える内燃機関が実現する可能性がある。一見するとエネルギー保存則に反する現象のようであるが、実際にはエネルギー保存則を破るものではないという。通常のエンジンでは、そのエンジンより高温の媒質からしかエネルギーを吸収できないが、マイナスのケルビン温度の物質を利用するとエンジンより高温および低温の両方の媒質から同時にエネルギーを吸収できるようになる。これがエネルギー保存則を破らずに熱効率100%超のエンジンが作れる理由である。

マイナスのケルビン温度における原子ガスの熱力学的な挙動については、天文学分野で注目されているダークエネルギーとの類似性も指摘されている。ダークエネルギーは宇宙の加速膨張を説明するために仮定された力であり、全宇宙の質量が重力の作用で引き合っているにもかかわらず宇宙の膨張速度が減速し収縮へと向かわないのは、ダークエネルギーが働いているからであるとされる。今回作製された原子ガスでは、通常の気体のように原子同士が反発しあわず、逆に互いに引き寄せあう。すなわち負の圧力がかかっていることになる。しかし、原子ガスは負の圧力で収縮して崩壊することなく、安定状態を保つことができる。これは、宇宙が重力によって収縮崩壊しないで済んでいるのと似ている。


発表資料

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「マックス・プランク研究所ら、絶対零度より低温の気体を実証。熱効率100%超の内燃機関が実現可能に?」への15件のフィードバック

  1. 【訂正】本文中、「数十億分の1ケルビン」と表記した箇所は、マックス・プランク研究所の発表資料では「十億分の数ケルビン(a few billionths of a Kelvin)」となっていました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。

  2. この内燃機関作れたら大金持ちになれそうな話って事だけ解った。

  3. 応用して、現在の原子力発電より放出されています。
    汚染水を絶対零度からそれよりも低温の気体で
    個体にし、結晶化すると扱い安く成ると思いました。

  4. 俺が子どもの頃の本には、プラス1/100,000ケルビンが今(80年代半ば?)の限界とか書いてたのに、
    今はx/1,000,000,000まで冷却できるんだな。
    技術の発展ってすごいわ。

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